バットマン ビギンズ
監督:クリストファー・ノーラン
出演:クリスチャン・ベイル/マイケル・ケイン/リーアム・ニーソン/ゲイリー・オールドマン/ケイティ・ホームズ/キリアン・マーフィ/トム・ウィルキンソン/ルトガー・ハウアー/渡辺謙/モーガン・フリーマン
30点満点中18点=監4/話4/出3/芸4/技3
【闇のヒーローは、いかにして誕生したか】
大富豪で篤志家の父が凶弾に倒れ、その死は自分の責任だと思い悩むブルース・ウェイン。彼は、悪の何たるかを知り、正義を学び、悪に立ち向かう術を身につけるため、ヒマラヤの地で「影の同盟」による特訓を受ける。だがその教義に納得できなかったブルースは、生まれ故郷のゴッサム・シティへと戻り、自らの力で街にはびこる悪に対抗しようと決意する。執事アルフレッド、研究者フォックスらの協力を得て、いま、バットマンが誕生する。
(2005年 アメリカ)
【練られた構成・演出で楽しませる】
すべてがフィクションのはずである。バットマンも「影の同盟」もゴッサム・シティも実在しない。にも関わらず、僕らはこの映画を史実として受け止めようとする。このあたり、SWサーガのエピソードI/II/III(ジョージ・ルーカス監督)を観るのと同じような感覚。既成事実として認識している出来事の“はじまり”に触れる試みであるわけだ。
観客が物語の行き着く先(主人公がバットマンとなる)を知っているわけだから、映画を面白くするために乗り越えなければならないハードルは、高い。本作は、工夫を凝らしながらも誠実に語るという手法で障壁を乗り越えた。
特に前半は、ウェインの苦悩と成長、回想と現在進行形の特訓を上手に組み立てて飽きさせない。本来は第1章から第15章くらいまである話から、絶妙のバランスで必要な部分をピックアップし、さらに、ストーリーがより面白く感じられるよう時制をイジった、というような構成だ。
人はなぜ落ちるのか、本性は行動で決まる、最初に見つけた人のもの、といったキーワードもストーリー展開に生かされている。コスチュームやギミックを手作りするいっぽう、大企業のオーナーという立場を利用して大量生産するというのも、貧乏な主人公の完全手作りでヒーローが生まれる『スパイダーマン』(サム・ライミ監督)を意識したシーンに思えて面白い。
また“史実としてのリアリティ”を増すため、ハリウッド製のヒーローモノには珍しく一筋縄ではいかない(つまり完全に否定できない)悪を描いているし、反面、権力の腐敗というわかりやすいシチュエーションも用意してある。正義ではなく恐怖がバットマンを生んだという皮肉も感じられる。
なかなかに練られたシナリオだろう。
このシナリオを十分に生かす演出であるともいえる。
ピアノによって開かれる隠しドアなどのディテール、バットマンの声の音響効果、ヒマラヤ/地下空洞/ゴッサム・シティのスラムといったロケーションとセット、バットモービルの造形と走りっぷりなど美術・技術面に見どころは多く、シーン/カットの連続もかなりスピーディだ。
ただし。豪華な、いや豪華すぎる配役が本作を含むバットマン・シリーズの見どころだが、正直、今回はあまり効果的だったとは思えない。ヘンリー・デュガード役のリーアム・ニーソンは新境地だと思うし、マイケル・ケインも場の空気をピリっと締めるのに貢献しているが、渡辺謙、ゲイリー・オールドマン、モーガン・フリーマンの使いかたは、かなりもったいない感じ。
まぁ、こうしたスターが名を連ねることで本作の重厚さが増していることは確かだろうが。
それでも全体として、アメコミらしいオモチャっぽさが可能な限り排除され、他のヒーローモノとは一線を画す、ダークな雰囲気の濃い、スケールの大きなアクション・ムービーとして立派な仕上がりを見せていたと思う。
ま、あり得ない秘密兵器の登場など、やっぱり(悪い意味での)マンガ的部分は残っているし、ホテルを勢いで買っちゃうくらいの大富豪が主人公なので、心のどこかにビビビと響いてくるものはないんだけれど。
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