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2006/04/19

ネバーランド

監督:マーク・フォースター
出演:ジョニー・デップ/ケイト・ウィンスレット/ジュリー・クリスティ/ラダ・ミッチェル/フレディ・ハイモア/ニック・ラウド/ジョー・プロスペロ/ルーク・スピル/ケリー・マクドナルド/ダスティン・ホフマン

30点満点中17点=監4/話4/出3/芸3/技3

【『ピーター・パン』は、こうして生まれた】
 新作を酷評された劇作家のバリは、公園へと散歩に出かける。そこで出会った未亡人のシルヴィア、彼女の4人の息子たちとすぐに打ち解けたバリだったが、三男のピーターだけは父親を亡くしたショックから立ち直れず、まるで楽しむ気持ちを失ったかのよう。その姿に、かつて兄を亡くした自身を重ねたバリは、ピーターをモデルにした少年が登場し、楽しむ心や想像力、信じる力の素晴らしさを詰め込んだ『ピーター・パン』を書き上げる。
(2004年 アメリカ)

【価値観の違いを乗り越えるために】
 1本の映画を、面白いという人もいればくだらないという人もいる。つまりは、価値観の違い。100人いれば100通りの価値観があって然るべきだけれど、独りよがりの価値観や、自分の価値観を周囲に押しつける人、他人の価値観を認めようとしない人があまりに多くて、人間世界には衝突が絶えない。まぁ他人のことはいえないけれど。

 本作でも「立場の違いによって生まれる価値観の違い」が物語のベースとして描かれている。
 他人を楽しませることを存在意義とするバリ。上流社会での処しかたが価値観として身についているデュ・モーリエ夫人。芸術を支援しながら興行的な成功もまた求めるフローマン。それぞれに異なる立ち位置。4人の子供たちも、現実だけに価値観を見出そうとするピーター、自分なりの価値観を確立しようと懸命の長兄ジョージ、まだ価値観の何たるかも知らない末弟マイケルなど、それぞれが“価値観”に対して独自の態度を取っている。

 で、その価値観の違いを超えて互いを理解しあうのに必要なのが、理解しあえると信じる心。あるいは、『ピーター・パン』を観て笑う孤児たちのように、価値観の違いなどお構いなく楽しいものを素直に楽しむ心。そして、自分の言動が他人の価値観にどのような影響を及ぼすかを推し量る想像力。
 そんなネバーランド的な考えかたは、ひょっとすると誰もが持てるわけではない、理想主義的すぎることなのかも知れないが、絶対に必要なものであるのは確かなはずだ。

 一応はバリとピーターとの交流を軸に名作『ピーター・パン』完成までの過程を紡いだ映画だが、実はバリとピーターの関係はファクターの1つにすぎず(重要なファクターだけれど)、バリと周囲の人々との間にある価値観の違いと、その溝を埋めるために作られた『ピーター・パン』あるいはネバーランド、という図式の作品だと感じた。

 ただ、ちょっと行儀が良すぎたかな、という気もする。
 たとえばバリの妻メアリーは、バリとの価値観の相違から生活に息苦しさを覚え始め、なんとか夫の考えを理解しようとバリの日記まで盗み見してしまうが、そこに答えを見つけられなかった、という設定。思うに彼女は「人にはそれぞれ価値観の違いがある」ということすら認識していない人物ではなかろうか。
 またシルヴィアの母デュ・モーリエ夫人も「体面を重んじることの馬鹿馬鹿しさに気づいていて、ネバーランド的な考えかたにも理解はあるのだが、現実がそれを許さない」という立場であるはずだ。だってティンカーベルを蘇らせようと、いちばん激しく拍手したのは彼女だったんだし。
 この人たちの抱える哀しさをもっと泥臭く描けば「夫の浮気を疑って自分も浮気したが、罪の意識に苛まれる妻」とか「体面を重んじる上流階級の夫人」といった見た目以上の存在感が出て、ストーリーの奥行きも増したんじゃないかと思う。
 1時間40分という上映時間からしても、どうも、泥臭い部分はカットしてお話をわかりやすくしすぎたんじゃないかな、という印象がある。

 作りも、かなり行儀がいい。衣装やロケーションの美しさ、しっとりとした音楽、登場人物との距離を常に一定に保つカメラワーク、ベンチに座ったバリに歩み寄るピーターの姿など均衡の取れた画面、空想と現実の切り替わり……と、パーツひとつひとつが実に丁寧だ。
 もちろん「丁寧なのはいいんだけれど、もうちょっとヒネクレた部分や泥臭いところがあっても良かったなぁ」とか「この映画の主題は“価値観の違い”と、それを乗り越える術だ」とすることじたい、誰にも押しつけることなどできない、私だけの価値観である。

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