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2006/04/30

バタフライ・エフェクト

監督:エリック・ブレス/J・マッキー・グルーバー
出演:アシュトン・カッチャー/エイミー・スマート/ウィリアム・リー・スコット/エルデン・ヘンソン/メローラ・ウォルターズ/エリック・ストルツ/イーサン・サプリー/ローガン・ラーマン

30点満点中17点=監4/話3/出3/芸3/技4

【彼女の幸せのため、何度でも過去を塗り替える男】
 精神病の父、暴力的な友人、不幸な事故、数分間の記憶喪失……。さまざまな出来事に翻弄されながらも、大学へ進学しエリートとしての道を歩み始めたエヴァン。だが彼は、ある約束を果たさなかったばかりに幼馴染みのケイリーが不幸な人生を歩んでいることを知る。記憶を補うために子どもの頃からつけている日記を読み返したとき、エヴァンの意識は過去へ飛び、歴史を塗り替える。その行為は、やがて取り返しのつかない結末を呼ぶ。
(2004年 アメリカ)

【あと“切なさ”があればよかったのだが】
 消したい過去、やり直したい出来事、そういうものは誰にだってある。ただ、やり直しの結果として「得るもの」と、その代償として「失うもの」を天秤にかければ、たとえエヴァンのような能力を持っていたとしても行使することには躊躇いを覚える。まぁ、いよいよ切羽詰まったときには「うんぎゅぶぅ」と過去へ飛んで鼻血を流すだろうけれど。

 ともあれ本作は、その「うんぎゅぶぅ」の連続。過去をイジった結果、あれやこれやと現在が変わる。
 その変化の範囲がエヴァンの半径数メートルにとどまっているので、お話としての“ふくらみ”には乏しい。過去に干渉するたび、これでもかというくらい事態が泥沼化していく展開にも少々ゲンナリさせられる。
 が、全体的な構成は意外性・説得力ともにあってなかなかに面白い。エヴァンの父に起こったこと、ケイリーの父のその後を語り過ぎないなど、「必要なことはしっかり見せるが、必要でないことは雰囲気だけで感じさせる」という配慮もいい。過去へのジャンプの際に文字や景色がにじんだり、歴史を塗り替えた後に新たな記憶がエヴァンの脳にドっと押し寄せる視覚効果はユニークだし、第二の人生でいきなりエヴァンの周囲がカラフルになる美術プランニングも妥当。わびしく鳴り響くBGMも画面にマッチする。
 興味深く観られる2時間だ。

 が、この映画には決定的に欠けているものが2つある
 1つは主要登場人物ふたりに魅力がないこと。
 主役エヴァンはそれなりに頭のいい若者のはずだが、場当たり的に過去をイジりまくる。突然の出来事にパニクることも大切な人を救いたい気持ちもわかるが、彼の頭の中には「得るものと、その代償として失うもの」という思考はない。ひたすら「困ったら過去へ戻れ」である。まぁそのあたりに文句をつけたら、この物語は始まらないわけだが。
 せめてケイリーはもっと魅力的に描けなかったものか。演じたエイミー・スマート自身がチャーミングじゃないせいもあるが、キャラクターとしてもちっともキュートじゃなく、「こういう人」という実像が見えてこない。トラウマを抱えていることは示されるものの、エヴァンが血眼になって「この人を幸せにしたい」と思わせるほどの可愛さがなく、そのせいで動機が薄いお話になってしまっているのだ。

 そう、その動機の薄さによって“切なさ”が漂ってこないことが、2つめの欠点だ。
 この手の「もう1つの人生もの」、あるいは自分史や愛する人の運命に干渉するタイムトラベルものとしては『天使のくれた時間』(ブレット・ラトナー監督)、『ある日どこかで』(ジュノー・シュウォーク監督)、『時をかける少女』(大林宣彦監督)、『タイムマシン』(サイモン・ウェルズ監督)などが思い浮かぶが、それぞれデキはともかくとして「得るものと、その代償として失うもの」とか「決して取り戻せないもの」、「命を賭してでも変えたい過去」にまつわる“切なさ”はあった。パターンは異なるが、浜田省吾の『君と歩いた道』にも、自分が選んだ人および人生に責任を負うという“切なさ”があふれる。
 そういうものが、本作には皆無。それもこれも「だってエヴァン、お前いったい、どの程度ケイリーのことを大切に思っていたのさ。長い間、連絡すらしなかったんだろーが」という思いが先に立ってしまっているせいだ。

 恋愛ものには、この“切なさ”こそが不可欠。ましてや本作は、いくつか候補があった中からこのエンディングを選んだわけだから、なおさら、どうしても、何を引き換えにしても彼女を助けたいという痛切な気持ちを前面に押し出すべきだったはずだ。また、過去を変えるという行為には、それまで持っていた「これがオレの人生」という記憶が消失してしまう恐怖がともなうはず。そうした切なさも描けなかったものか。
 現状でも「過去に干渉することで引き起こされる予想外の出来事」を描いた映画としては秀作だが、漂う切なさが付加されていれば、もっともっと心に響く作品になったはずだ。

 ずいぶん経ってから気づいたこと。本作ではエヴァンとケイリーの人生が形を変え姿を変えて何度も語られるわけだが、このたたみかけるような展開ってば『うる星やつら ビューティフル・ドリーマー』(押井守監督)の終盤に共通する。本作の何億倍もの“切なさ”を描き切った『BD』は、やっぱり偉大だなぁと実感するのである。

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