大統領の理髪師
監督:イム・チャンサン
出演:ソン・ガンホ/ムン・ソリ/イ・ジェウン/リュ・スンス/ソ・ビョンホ/パク・ヨンス/チョ・ヨンジン
30点満点中15点=監3/話2/出4/芸3/技3
【無知な理髪師、大統領のそばでの生涯】
大統領官邸のある町で床屋を営むソン・ハンモ。政治にはまったく関心がなく、何をするにもへっぴり腰、町の世話人の言葉にハイハイと従うだけの小市民だ。ところが、ひょんなことから大統領専属の理髪師として働くことになる。官邸内には情報部と警護部の権力争いも見られたが、ハンモはただ髪を切り、髭を剃るばかり。そんな折、北の工作員と接触したものが罹るという「マルクス病」の疑いで、息子のナガンが国の上層部に連行される。
(2004年 韓国)
【ホームコメディ&感動ドラマを期待してはならない】
映画に歴史観やイデオロギーを盛り込むなとはいわないが、少なくとも、そうした主義主張を取っ払っても楽しめるエンターテインメントとして成立させるべきだ(自分の不明はタナアゲ)。それが、なっていない。
前半はケラケラ笑えるコメディ。狭苦しくて野暮ったい舞台・画面だが、ハンモのダメっぷりや精一杯感が滲み出ていて、楽しく観られる。
が、マルクス病が出てくるあたりから、方向が怪しくなる。作者からのメッセージや“叫び”、韓国史についての隠喩などが色濃く詰め込まれているらしい。あいにく隣国の歴史には不明なので、そのへんを完全無視して観るしかないのだが、う~む。
そもそも主人公が理髪師である意味は? 大統領の側近はなぜ、どの程度イガミあってるの? どうも主義主張を詰め込むことだけに気を取られて、お話としてのまとまりを欠いているように思える。
で、その主義主張。
精神と知識の貧しさは経済的貧困を呼び、経済的貧困は精神・知識の貧しさを生む。タマゴが先かニワトリが先かはわからないが、結局のところ圧政下にある庶民は、ハイハイと肯きながら、自分の両腕の届く範囲に幸せを築いていくほかない。
ハンモの姿は、ただ韓国やアジア諸国の市民を象徴するものではなく、そもそも独裁政権や圧政でない国のほうが珍しいのだから、あまねく人間の生き様でもあるのだろう。
政権に片足を突っ込みながら、ずっと変わらないハンモ。それゆえ大統領に可愛がられるわけだが、それは見かたによれば愚者の姿でもあるのだ。
というニオイを読み取らせつつ、家族ドラマの体裁を取る本作。その試みは成功しているとはいいがたい。だって“面白くない”んだもの。
風刺劇にするのはいいけれど、寓話にしたいのか、わたしらのような不明人が見ても楽しいドラマにしたいのか(売りかたとしてはこちらか。で、それが失敗しているといいたいわけだ)ハッキリしてよ、という感じ。『フォレスト・ガンプ/一期一会』(ロバート・ゼメキス監督)も感情移入の難しい映画だった(ただしメッセージ性は強くハッキリと読み取れたし、エンターテインメントとしての楽しさもあった)が、この手の作りは、なかなかムズカシイ。
『復讐者に憐れみを』(パク・チャヌク監督)とは180度異なるソン・ガンホの芝居だけは良かったが。
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