クライム&ダイヤモンド
監督:クリス・ヴァー・ヴェル
出演:クリスチャン・スレイター/ティム・アレン/ポーシャ・デ・ロッシ/ビリー・コノリー/リチャード・ドレイファス
30点満点中18点=監4/話4/出4/芸3/技3
【詐欺師が語る犯罪ドラマは、映画より面白い!?】
ゴシップ専門ジャーナリストのタウトは、腕利きの殺し屋・毒舌ジムに捕らえられる。映画好きのジムから「面白い話を聞かせれば、それだけ長生きできる」といわれた彼は「自分はタウトではなく詐欺師のフィンチだ」と、タウトになりすますことになった経緯を語り始める。それは、奇術師のマイコーが強奪して地中に隠したダイヤモンド、マイコーの娘テス、ジムを雇ったマフィア、本物のタウトらが絡んだ複雑かつユニークな顛末だった。
(2001年 アメリカ)
【ひねくれているようで、実は素直】
有名作でも話題作でもないが、レビュー・サイトでやたらと誉められている映画。なるほど確かに、シャレっ気があってスリリングでテンポもよく、上手にまとめられた佳作だろう。
フィンチがジムに「なぜタウトを名乗り、マフィアに狙われることになったか」=事件の顛末=回想を語って聞かせ、そこにジムの回想=彼がフィンチを追い詰めた経緯が交わる、という構成。おのおのの回想は先の読めない展開で進み、かつ、奇術師のマイコー、マヌケな二人組みの殺し屋やゲイなども絡んでユニークだ。
映画大好き、というジムの設定も効いている。というより、本作にはなくてはならない要素となっている。『ティファニーで朝食を』(ブレイク・エドワーズ監督)や『大脱走』(ジョン・スタージェス監督)、あるいは『マルタの鷹』(ジョン・ヒューストン監督)といった名画の名場面と名セリフを生かしつつ、ジムはフィンチに話を促すのだ。
大半はジム自身が元ネタとなっている映画を明かしてくれるのだが、そのほかにも数多くの名画がフィーチャーされているようで、それら埋め込まれた作品の数々を解読するのも本作の楽しみかたのひとつ。
またタランティーノばりの「意味がありそでなさそなディスカッション」を思わせるオープニングカットといい、いかにも痛快クライム・ムービーであることをアピールするオープニング・クレジットといい、最初っから脚本兼監督のクリス・ヴァー・ヴェルの趣味および映画愛が全開なのだが、元ネタを知らなくとも十分に楽しめる作りに好感を覚える。
演出表現的にも、奇術師マイコーによるダイヤモンド強奪シーンはセリフなしでスピーディに描かれるし、脱走の場面では追跡者のクルマのガソリン漏れや盗まれた洗濯物をサラリと映して「くどくど説明せず、見せてわからせて物語のリズムを作り出す」ことに配慮されていて、手堅い。
惜しまれるのは、上手にキレイにまとまり過ぎている点か。「語り=ストーリー」型の大傑作であるアレを観た後では、どうしても、フィンチの話はどこからどこまでが真実なのか、どこまで真相を明かしているのかと、穿った観かたをしてしまう。たとえば「テレビの後ろにダイヤモンドが隠してある」とフィンチがいえば、それを確認しようとしたジムが仕掛けられた爆弾で殺されるんじゃないだろうか、とか。
あるいは、映画好きのジムに「そんな展開にはムリがありすぎる」などともっとケチをつけてもらいたかった、とも思う。まぁ、そうすると『笑の大学』(星護監督)になっちゃうんだけれど。
そんなモヤモヤを抱えながら観ていると、意外なほどストレートに、落ち着くべきところへ落ち着いてしまう。なんともオシリにむずがゆさが残るまとまりかたなのだ。
逆にいえば、ふたりの回想がキレイに1つの場所へと収束し、最後には落とすべきところへ、まさしく「映画好きの殺し屋が望む結末」へと落とす、それが本作の魅力であるともいえる。多少強引ではあるけれど、心地良さを味わえるエンディングだ。
ひねくれているようで実は素直なジムとフィンチが作り上げた、ひねくれているようで実は素直なストーリーである。
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