トスカーナの休日
監督:オードリー・ウェルズ
出演:ダイアン・レイン/サンドラ・オー/リンゼイ・ダンカン/ヴィンセント・リオッタ/ラウル・ボヴァ
30点満点中18点=監4/話4/出4/芸3/技3
【作家がトスカーナで出会った、1件の古い家】
離婚の痛手から立ち直れずにいる女流作家のフランシスは、親友のパティから渡されたチケットを手に、気乗りしないままイタリア・トスカーナへのツアーに参加する。そこで偶然見つけたのは『ブラマソーレ(太陽に焦がれる者)』と呼ばれる築300年の屋敷。全財産をはたいてこの家を衝動買いしてしまった彼女は、慣れぬ手つきでリフォームを始める。奇妙な人々との出会い、新たな夢、懲りない恋……。彼女は少しずつ明るくなってゆく。
(2003年 アメリカ/イタリア)
【関わり合うことの気持ちよさがある作品】
そう簡単に人生をリセットすることなんて、出来はしない。いろんなものを捨て置いて、自分のことを誰も知らない土地へ行ってしまうのが最良の策ではあるだろう。けれどそれも、金と語学力があればこそ。
それに、惚れっぽかったり人を定型化したりといった、ン十年もつきあったおのれの性癖とサヨナラするのは無理ってもんだろう。
誰もがそれぞれの『ブラマソーレ』を手に入れられるとは限らない。
よって、意外とこの作品、共感を得られないんじゃないかと思う。
絵作りも、やや単調。会話するふたりを交互に映すだけだったり、バスト~ウエストのサイズが多かったり。トスカーナの景色は画面いっぱいに映されるが、ヨーロッパらしい晴れやかさにはちょっと欠ける。
全体にこう、グイグイ引っ張っていく力感の少ない映画だ。
でも、軽快に流れる音楽と同様に、不思議と気持ちのいい作品。
ひとつには、対象物の浮き上がらせかたの上手さがあるからだろう。不動産屋の店先に掲げられた物件情報の中で、ひっそりと光を放つ『ブラマソーレ』のイラスト。市場をゆったり歩くキャサリンの背中。赤ん坊をあやすパティ。キーとなるものがポっと画面の上で輝くのだ。
ひとりひとりの表情もいい。ダイアン・レインは相変わらず「いい歳の取りかたしているなぁ」と思わせるし、リンゼイ・ダンカン演じるキャサリンのプチ美輪明宏っぽさ、ヴィンセント・リオッタ演じるマルティニの人の好さもいい感じ。
なにより、人々に実在感がある。パティと恋人との関係、パヴェルたちポーランドから来た職人たちの過去、キアラの両親が娘の結婚に同意する経緯や花を持って歩く人など、各キャラクターの背景はほとんど説明されないのに、また登場シーンが少なかったりセリフがなかったりする人も多いのに、映画のために用意された人物ではなく「そこに確かにいる人。フランシスと関わりあう人」だという実感がある。
だから、実はこれ、リセットを描いた映画なんかじゃない。いろんな人がいて、それぞれが“主役は自分”という人生を歩んでいて、そんな人たちが関わり合って物語が生まれていく。ただ、短期滞在者向けアパートに閉じ篭っているだけではその関わり合いの大切さには気づけないし、自分以外の主役の存在に気づくこともない。そんなメッセージを感じ取れる。
列車を走らせるためにレールを敷く。それは単に自分のもとへ幸せを運び込むための行為ではなくて、誰かと関わり合う道筋をつけるための行動なのかも知れない。
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