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2006/07/02

ザ・インタープリター

監監督:シドニー・ポラック
出演:ニコール・キッドマン/ショーン・ペン/キャサリン・キーナー/イェスパー・クリステンセン/イヴァン・アタル/アール・キャメロン

30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4

【国連を舞台に、激情と哀しみが交錯する】
 独裁者ズワーニが支配するアフリカのマトボ共和国で、対抗勢力の代表者ゾーラが殺害された。嫌疑をかけられたズワーニは国際刑事裁判所への出廷を免れるため、国連での演説を計画する。そのズワーニの暗殺計画を偶然耳にしたのは、国連の通訳シルヴィア・ブルーム。シークレットサービスのトビン・ケラーは彼女の護衛と暗殺計画の解明を進めるが、シルヴィアの哀しい過去を知る。ケラーもまた、妻を亡くした哀しみを抱いていた。
(2005年 アメリカ)

【理にかなった作り。映画を観た実感を味わえる】
 有無をいわさぬ緊迫感を持続させて突っ走るサスペンスものだが、隅々まで計算して仕上げられた緻密な作品でもある。スタートダッシュもラップタイムもコース取りも仕掛けどころも完璧な逃げ馬のようなイメージだ。
 以前『ザ・ファーム/法律事務所』では「手堅いけれど深みがない。映画的な鮮やかさが皆無」などという感想を抱いたが、今回、ポラック監督の演出は見違えるほど鮮やか。もう70歳だというのに、まだまだ進化を続けているのが凄い。

 まず素晴らしいのが、クドクドしすぎていないこと。政治絡みのストーリーだとどうしても説明過多になりがちだが、「これは通訳が主役の物語なんです」とアピールするオープニングに始まり、一見してシルヴィアの心がいまだ故郷に残っていることをわからせる彼女の部屋、ケラーが妻を思い続けていることを示す留守番電話のエピソード、簡潔な言葉と動作だけで構成されたカットをまとめて次のシーンへとつなげるテンポのよさなど、実にスッキリと、澱むことなく「どんな人間が登場する、どんな話か」を読み取らせてくれる
 単に時間の都合で飛ばしたり端折ったりするのではなく、必要最低限をきっちり説明・描写して観るものに1つずつ納得させる手際は、この監督の十八番といえそうだが、さらに磨きがかかった感じだ。
 一転してニコール・キッドマンとショーン・ペンのシーンでは演技をじっくり見せて、緩急の使いかたもスマート。「ここが2番街です」というセリフに見られるシニカルさもアクセントとなっている。

 また本作では“音”が重視されていた点も印象に残った。次のカットで出てくる音を直前のカットのお尻から始める、というのは『ザ・ファーム』でも用いられていた手法だが、これに加えて、他の場所で話しているセリフを別の場所の映像に乗っけたり、独り言、マイクチェック、留守録、鼓動、足音や静寂など、常に“音”を意識させる作り。
 ジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽も、いかにもサスペンス、いかにも映画音楽的な趣で、画面に重厚さを与える。また必要以上にアップにはしないフレーミングは「映画は観るだけじゃない。聴け、あるいは全身で感じ取れ」というメッセージに思える。
 通訳という、ある意味で耳が商売道具である人を主役としているわけだから、理にかなっている作りかただ。

 欲をいえば、国連通訳という仕事の裏側をもう少し見せてほしかったとも思うが、ニコール・キッドマンの前髪の垂れかたは美しいし、ショーン・ペンの苦渋に満ちた顔も味わい深いし、何よりも、決して派手ではないけれどしっかり考えて作られていることがよくわかって、「映画を観た」という実感を抱かせてくれる。佳作。

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