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2006/07/17

ドラえもん のび太と銀河超特急(エクスプレス)

監督:芝山努
声の出演:大山のぶ代/小原乃梨子/たてかべ和也/肝付兼太/野村道子/伊倉一恵/塩沢兼人/千々松幸子/真殿光昭/内海賢二

30点満点中19点=監4/話4/出4/芸4/技3

【星間を駆けるミステリートレイン、その行方に待つものは?】
 三日三晩行方不明だったドラえもんが未来世界から買ってきたのは、銀河系を旅するミステリートレインの切符。ドラえもん、のび太、ジャイアン、スネ夫、しずかといういつものメンバーは、星々を渡る旅に出かける。だが宇宙の陰には怪しげな姿が……。やがて一行は列車内で、忍者、吸血鬼、ガンマン、恐竜の姿を目撃、さらには宇宙海賊に襲われる。射撃が得意なのび太が懸命に抗戦するも、列車は小惑星帯にある星に不時着するのだった。
(1996年 日本 アニメ)

【完成度の高い映画版ドラえもんの、その頂点】
 期待に応える、期待を(いい意味で)裏切る。それが、物語が面白くなるかどうかのポイントだ。
 前者の例が『水戸黄門』や『遠山の金さん』といったワンパターン時代劇とその流れを汲む『ごくせん』あたり、後者は『24』や『LOST』など最近ハヤリの多様性展開アメリカン・ドラマだろう。

 映画版ドラえもんは「期待に応えましょう」精神に満ち溢れた作品群といえる。特に本作は、みんなが観たいと思っているものをしっかりと楽しく観せてくれる、シリーズ最高傑作ではないかと思う。
 映画では急にカッコよくなるのび太(というのがギャグとして本作中に使われているほど)、映画では頼もしいジャイアン、意に反してトラブルを大きくしてしまうスネ夫、そしてご存知、しずかちゃんの入浴シーン。
 もちろん物語は、楽しさと隣り合わせのトラブルや、レギュラー陣がゲストキャラと力を合わせて侵略者を退治するという、まさに「それが観たくて映画版ドラえもんを観る」とでもいうべき勧善懲悪の王道パターン。

 特に今回印象的だったのが、ミステリートレインという魅力的なネタをのび太に横取りされて歯噛みしていたはずのスネ夫が、ミステリートレインに乗りたくて真っ先に野比家へと駆けつけていて、遅れてやってきたジャイアン&しずかちゃんに申し訳なさそうにいったひとこと。
 なにげない言葉だけれど、このレギュラー陣がいかに厚い信頼で結ばれているか、たがいのキャラクターを理解しあっているかを示す名セリフだ。こうして、ドラえもんの大テーマの1つである“相互理解に基づく友情”も、しっかりと見せてくれるわけである。

 これだけ「いかにも映画版ドラえもん」的要素が詰め込まれているのに、ついでにいえば『銀河鉄道999』(松本零士・作)や『ジュラシック・パーク』(スティーブン・スピルバーグ監督)をパクっているのに、既視感と無縁なのは、密度が濃くてよく整理されたストーリーゆえのこと。
 たとえば、圧縮空間や寄生生物といったSF的アイディアを盛り込み、テーマパークならではの苦労も挿入して笑わせるなど、かなりギッシリ感が強い。「シリーズ物」という性質上、個々のキャラクターや舞台設定などを詳しく説明・描写する必要がないわけだが、その分を他の要素に回して“濃さ”を高めているような印象だ。ダーク・ブラック・シャドー団とか希少価値の高い鉱物の名前がメズラシウムとか、ネーミングのセンスも抜群。

 また、しっかりとした伏線も大きなポイントだ。のび太のウリである射撃の腕をあらかじめ見せておいて、それを中盤やクライマックスにも生かす。今回の敵であるヤドリたちを撃退するためのヒントも前半部で押さえてあるし、禁断の星から脱出するため坑道から機関車を取ってくるジャイアンには「それかぁ~!」と思わず拍手してしまうほど。
 ゲストキャラの配しかたも上手く、ミステリートレインの車掌や新聞記者のボーム、のび太一行を「昔もん」とバカにする若者たちが、要所要所でレギュラー陣と関わり、スムーズに物語を進める役割を担う。

 あまりにお話のデキと展開がいい(セリフに頼った説明は多いけれど)もんだから、ひみつ道具のユニークさに頼らなくても十分に面白い、というのも本作のセールスポイント。実際、登場するのはおなじみのタケコプターとどこでもドアくらいのもの。しかも機能しなくなって、事件を“解決”するのではなく“展開”させるツールとして扱われている。
 いや、本当に面白い。

 演出・作画も、この面白さを助ける。
 吸血鬼を見つけたのび太がドラえもんを呼びにいくシーンの軽快さ、ラプトルに囲まれる場面でのユーモア。“間”のよさ、緩急の上手さを全編から感じ取ることができる
 今回は音楽もこのテンポのよさを支えていて、メンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』がこんなにもドラえもんとマッチするという、新鮮な驚きも味わわせてくれる。
 フレームインとフレームアウトを多用し、さらにズームや、アオリ・俯瞰で世界に立体感を持たせるなど、レイアウトは意外なまでにバリエーションに富んでいる。会話シーンでも、ただ口だけが動くのではなく、ちゃんとボディアクションを交えたりして、丁寧で、いちいち動きが細かい。
 かと思えば昭和期のホームドラマ風の安定した絵もあるし、大きな動きがなくじっと見せるカットもある。ミステリートレインの車窓から土星を眺めているドラえもんとのび太の後姿なんか、涙が出るくらい美しい。
 そう、見た目的にも密度が濃くてよく整理されているのだ。

 ま、「さあ、ここからがクライマックス」という盛り上がりがなく、全編同じテンションで進むことに不満はあるし、あくまで子供向けであることも事実。もしこれで「そう来るか!」という(いい意味での)裏切りが1つ2つ味つけとして加えられていれば、超のつく傑作になりえたことだろう。
 逆にいえば、それくらいのレベルにある上質の映画。安心しながらワクワクできる娯楽作である。

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