ウィスキー
監督:フアン・パブロ・レベージャ/パブロ・ストール
出演:アンドレス・パソス/ミレージャ・パスクアル/ホルヘ・ボラーニ
30点満点中17点=監3/話4/出4/芸3/技3
【ちょっとしたウソの行く先】
ウルグアイの、とある町。工員が数人だけの小さな靴下工場を営む、老齢へと差し掛かった独身男、ハコボ・コレル。こんどの日曜日、ブラジルから彼のもとへ数十年ぶりに弟のエルマンが帰ってくる。亡き母の墓石の建立式のために。弟に心配をかけまいとしてか、ハコボは、工場の事務員マルタに妻の役を演じてくれないかと頼む。これを承知したマルタは、髪を整え、指輪をはめ、ハコボとふたりで写真を撮って、エルマンを迎え入れる。
(2004年 ウルグアイ/アルゼンチン/ドイツ/スペイン)
【ある意味、衝撃的なエンディング】
15分ほどで、観るのをやめようかと思った。もうちょっと軽快なコメディだと思っていたのに、ジリジリと時間だけが流れる「こんな日常って、あるよね」的な作品だったから。
ところがふと、このノンビリした流れの中に、驚くほどの意思や要素が詰め込まれていることに気づかされる。
同じタイミングで繰り返される同じ毎日の退屈さ。
一発でかからないエンジン、接触の悪い蛍光灯、引っかかったブラインドといった「ちょっとした蹉跌だらけの人生」を象徴するものたち。
人の身体をわざと画面からはみ出させるレイアウト。
マグネットが逆さ向きに貼られたり、エルマンのジョークの中に登場するイサクが墓石建立式に現れたり。
雑然と積まれた段ボール箱や不調をきたす機械、工員退出時の荷物チェックや得意先との取引などが、零細企業の現実を描き出す。
見ているこちらがひやひやするくらい無口でぶっきらぼうなハコボと、額にしわを寄せっぱなしのマルタ、そこに紛れ込んだエルマンという異物、この三者が作り出す、とてつもなく気まずい空気のリアリティ。
意外とディテールが細かく、しっかり作り込まれた脚本と演出だ。
そうして、小さなウソという大きな事件が静かな日常に起こす波紋を、じっくりと語っていく。人の運・不運や人生、たどる道というのは、ちょっとした偶然や思いもよらぬきっかけでガラリと変わってしまうのだなぁなどと考えさせながら。
で、突如として訪れるエンディング。「あ、ひょっとしてここで終わらせるかも。だったらスゴイ」と感じた瞬間、エンドクレジットが始まる。説明らしい説明もなく、観客を突き放しての終劇。「うわっ、やっぱり……。映画には、こういう終わらせかたもあったのか」と感心し、このエンディングのための映画であり、このエンディングのためのハコボとマルタのキャラクターだったということに思い至る。
ある意味、ヒッチコックの『サイコ』とかブライアン・シンガーの『ユージュアル・サスペクツ』あたりと同等か、それ以上の衝撃。こいつを味わえるだけで観る価値のある映画かも知れない。
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