フル・モンティ
監督:ピーター・カッタネオ
出演:ロバート・カーライル/マーク・アディ/スティーヴ・ヒューイソン/トム・ウィルキンソン/ポール・バーバー/ヒューゴ・スピアー/ウィリアム・スネイプ
30点満点中17点=監4/話4/出3/芸3/技3
【生活に窮した男たち、選んだ道は素っ裸!】
かつては鉄鋼の町として栄えたイギリスのシェフィールド。だが工場の閉鎖が相次ぎ、いまや失業した男たちであふれかえっていた。いっぽう女たちは男性ストリップに熱狂。息子ネイサンの養育費を別れた妻に払わなければならないガズは「これなら俺たちにだってできる、金になる」と思い立ち、太っちょのデイヴ、自殺志願のロンパー、失業の事実を妻に隠しているジェラルド、オーディションで集めたホースやガイらと初舞台を目指す。
(1997年 イギリス)
【笑いの中にドキリ しっかりと仕上げられた佳作】
クスクス笑いの中にズドンと撃たれるような衝撃や切実さを上手く盛り込んで、意表を突くというか、予想外の作りで観る者を引き込むコメディだ。
まずはテンポ。たとえば男性ストリップ劇場の前で「男は入れないよ」というセリフの直後にポンとトイレの窓から忍び込むカットへと持って行く。ジェラルドの再就職面接も、あぁ上手くいきそうにないなと思わせたところで早々にシーンを切り上げる。こうした“不要な部分はすっ飛ばして話を転がしていく”手際が実に小気味よくて、ストーリーの流れに「!」を作り出している。
セリフの数々も生きていくことの核心を突いていて、ハっとさせられる。「金さえあれば誰にも笑われない」とか「暇を持て余すのって疲れるんだ」なんて、本当に貧乏を経験していないと出てこない言葉だ。
こうしたドキリは、大枠の作りがシッカリしているからこそ生きる。
絵の作りなど撮りかたには気負ったところがなく、どちらかといえばフツーの見た目だが、それが全体の安定感に寄与。役者は適材適所だし、音楽は多彩で楽しい。安心して観られるコメディとして仕上がっている。
またジャグリングやノームの人形など前のシーンで出てきたことを後のシーンでも活用したり、登場人物それぞれが追い込まれていく状況や周囲に支えられている様子をサラリ&適時散らしたり、イギリスらしくオフサイドトラップを笑いに転化したり……と、バランスのよさや「入れるべきことはキチっと入れる」という意識も感じさせるシナリオだ。
その中で描かれているのは、カネの作りかたというより生きていくための気力の作りかた。そりゃあ素っ裸になれば何も怖いものなどないけれど、そこへ至るまでには悩み苦しみあがき乗り越え、いろんなものを捨てなければならない。
本作の登場人物もそうやって初舞台を目指すわけだが、苦難を乗り越えるためのモチベーションとなっているのは、決してカネなんかじゃない。大切な人に見せたい自分、あるいは大切な人を守りたいという意識が彼らを支えているはずだ。
人前で真っ裸になったとはいえ、プライドを捨て去ったわけじゃない。むしろ自分らしくあるために、余計なものを脱ぎ去ったことの現われだろう。
よく出来ているうえに、いろいろと考えさせてくれる佳作だ。
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