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2006/09/12

グエムル -漢江の怪物-

監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ/ピョン・ヒボン/パク・ヘイル/ペ・ドゥナ/コ・アソン/イ・ドンホ

30点満点中19点=監4/話4/出4/芸3/技4

【怪物にさらわれた娘を救うため、ダメ家族が立ち上がる】
 漢江の岸辺で細々と商店を営むパク・カンドゥとその父ヒボン。ある日、汚染によって生まれた怪物が河から上陸、カンドゥの健闘も空しく娘のヒョンソは呑み込まれ、カンドゥも怪物と接触したとして隔離されてしまう。そこへ、死んだはずのヒョンソから「大きな排水溝にいて身動きが取れない」との電話が。カンドゥの弟でフリーターのナミル、妹でアーチェリー選手のナムジュも加え、パク一家によるヒョンソ救出作戦が始まった!
(2006年 韓国)

【笑える怖さ、笑えない面白さ】
「河原のパニック、怖い怖い。『宇宙戦争』を思い出しました」
「怪物の出かたと動きと質感がいいよな、あっちでジャブン、こっちからずどどど、ぬるっ、ぴょん。特に、最初に人間を襲うところなんか笑っちゃうくらいスリリング
「冒頭、怪物誕生に至るところはちょっとクドいように思えましたが、河原の大暴れシーンから一気に物語もスピードアップします」
「オープニングのクドさにも、実はこの映画の大テーマが潜んでいるんだけれど、それはひとまず置いておこう」
「この怪物、坂道で転んだりするのがリアル。いきなりっ、ていうモンスター映画のセオリーを踏襲したシーンもあって、楽しい怖さですよね」
「常に、いちばん手前に観客(カメラ)、その前に登場人物、奥に怪物っていう構図、で、あの野郎、こっちへ向かって走ってくるんだよ」
観客に『やばっ』っていう感覚を突きつけるんですよね」
「ただ、カメラの前で何かが起こっているという感じではない。その逆、何かが起こっているところにカメラが入り込んでいる、という絵作りだから臨場感がある。いいよね」
「怪物の行動基準が不明なところもステキです」

「CGがちょっと浮いているシーンもあったけれど、怪物のアクションと人間の動きがマッチしていて、そんなに違和感はなかったし」

「歴史上、もっとも情けないモンスターハンターですよね、パク一家」
「相変わらず、この監督って“間の抜けた感”の作りかたが抜群だな」
「もう『あっ、こいつら悪いやつじゃないけどバカだ』って空気をプンプン漂わせるんですよね」
「このバカっぽさというか愚かさもテーマの1つなんだけれど、やっぱり置いといて、ソン・ガンホもピョン・ヒボンも上手いな」
「立ち姿とか眉のラインが、100パーセント愚か」
「ドゥナちゃんも、フツーなようでいてフツーじゃない。こういう『ひとつのことに一心不乱』っていう役、ホント向いているよね」
「弟ナミルの、デキるようでデキない、デキないようでデキるっていう雰囲気も絶妙です」
「そして、ヒョンソのノーブルさ」
「同じように怪物にさらわれたセジュへの接しかたが、すごくいい。目を覆ってあげるところとか」
「すんげぇリアルで、すんげぇ健気。間違いなく“ヒロイン”だよ、彼女」
「バカっぽさだけじゃなく、この家族の関係をサラっと描く手際も上手でしたよね」
「ナミルとヒョンソのふだんの関係とか、なんとなくニオってくる」
「脇役もそれぞれ味があるというか」
「不思議と“背景”が感じられるんだよな。ナミルの先輩とか」

「ただ、このバカっぽさに笑えないんですよね」
「笑えないっていうか、笑っちゃいけないというか」
「実は怪物より怖いものが身近にあるんだよ、ということを笑いに乗っけて語っているんですよね」
「うん。ヒョンソが生きているっていっても誰も信じてくれない。通りいっぺんの対応しかしてくれない。頼れる“権威”がない。本来は市民の安全を守ってくれるはずの“権威”は、大切なことは何も説明せず力ずくで市民を従わせようとする。そういう、社会の怖さ
「そんな社会で安穏と生きている、われわれは愚民、というメッセージ」
「映画館でまわりの人はけっこう笑っていたけれど、愚民っぷりを全開にさせているパク一家を笑うってことは、自分自身を笑うってことであって、だから笑えない」
「あとパク一家以外の人たちって、怪物騒動に対して冷淡というか無関心。そういう孤立感もありました」
「俺たちにも起こりうることだよね。凄惨な出来事があったとしても、みんなワイドショーを見て無責任に同情するだけで、自分の身を守るのに精一杯。そういう世の中」
「怪獣映画というより『未来世紀ブラジル』とか『リベリオン』にも通じる反体制映画。あるいは『誰も知らない』的な、他人との関係が希薄になった世の中を嘆く内容ですよね」

「で、“権威”とか“体制”とか“社会”という部分に、韓国では米軍っていう存在が絡んでくるんだろう。だから、あのオープニングがある」
「ナミルの特技なんかも韓国ならではですよね」
「あと隔離施設ね。意外とちゃっちい、ていうか間に合わせ。米軍の子分みたいな連中が作ったんだからしょうがないんだけれど」
「米軍が直々にカンドゥを拘束していたら、あんなに簡単に脱出できないはずですよね」

「カンドゥも『あれっ?』と思ったんじゃないの。観ている側からしても、韓国の警備体制ってだらしないなぁ、カネを積めば悪いこともできる世の中なんだなぁ、怪物退治も結局は米軍頼みかよっ、ていう、やるせなさとか諦観を覚えるストーリーになっている。けっこう韓国の現状への皮肉が込められている映画だと思った」
「ノー・ウィルスとか、『愚民だって愚民でいるばっかじゃないぞ』と感じさせるところもあるんですけれどね」
「結局はテレビを消しちゃう。ここ、いちばんのメッセージ。ただね、『大統領の理髪師』と違って、韓国の現状に詳しくなくても、社会派的な部分を取っ払っても、面白い作品に仕上がっているところが、この映画の凄いところ」

「一転二転しつつ上手にまとめてみせました」
「愚かさだけじゃなく、ずっとジメジメしているところ、人と人とのつながりの確かさと不確かさを描いているところ、ヒョンソという天使の存在、前後左右手前奥へと動く人物と怪物のスピード感……。全編に渡って『こういう映画にしよう』という一貫性を感じるし、見どころもいっぱい」
「クライマックスも爽快です」
「いいたいことをいって、やりたいことをやった。芯の通っている娯楽作、といったところだね」

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韓国の人々のオアシス漢江(バンカン) に突如出現した怪物をめぐる事件に 肉迫す [続きを読む]

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» NO.169「グエムル 漢江の怪物」(韓国/ポン・ジュノ監督) [サーカスな日々]
韓国史上空前の観客動員! しかし、僕は試写会場で、「無感動」に脱力していた。 試写会に足を向けたのは、10年ぶりかもしれない。知人にもらった招待状。あんまり、試写会という空間が好きではない僕は、普段なら「いや、ちょっと」とか言って遠慮するのだが、この映画は、喜んで、好意に預かることにした。 前評判は高い。ニューヨーク・タイムズでは「今年のカンヌ映画祭で、最高の映画だ!」と絶賛していた。韓国では、それまでの�... [続きを読む]

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