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2006/09/21

パッチギ!

監督:井筒和幸
出演:塩谷瞬/高岡蒼佑/沢尻エリカ/小出恵介/尾上寛之/波岡一喜/楊原京子/真木よう子/オダギリジョー/光石研/キムラ緑子/余貴美子/大友康平/前田吟/笹野高史

30点満点中16点=監4/話3/出4/芸3/技2

【愛は、歌は、歴史と世界を変えられるのか!?】
 1968年、京都。音楽が好きな康介と女の子にモテることばかり考えている紀男、東高に通うふたり。教師の布川は、日頃から東高とケンカばかりしている朝鮮高校との親善を図ってサッカーの試合を立案、康介と紀男が申し込みに行くこととなる。そこで康介が出会ったのは『イムジン河』という美しい曲と、フルートを演奏する美少女キョンジャ。だが彼女は朝鮮高校一の暴れん坊アンソンの妹だった。他校の不良も巻き込んだ恋は大波乱に。
(2004年 日本)

【アホを描いた映画】
 小学校の卒業式。友人の卒業証書に記された名前が、それまで呼んでいたものとは異なっていた。なぜかと訊くと担任は言葉を濁した。理由は後日、知ることになる。誰もが“それ”を隠していたこと、“隠していた”ことまで誤魔化そうとしたことが、やたらと悔しかった。
 それはたぶん「大人の配慮」だったのだろうが、その配慮は残酷で対症療法的で偽善に過ぎなかった。
 高校のとき、同学年に金君がいた。世の中は配慮で埋め尽くされているわけではなかった(あるいは配慮を拒んだ人が増えた)のだ。

 で、本作。
 葬式のシーンから明らかなように、かつては配慮の名のもとに隠そうとされたこと、いまでは風化しつつあることを真っ向から説明し、教える役目を持つ作品である。
 その説明を少しばかり「語る」ことに頼った感はあるものの、極度に説教臭くならないよう小さなギャグを散らし、万国共通の“愛”という感情を中心にすえて、テンポよくお話は進む。
 アンソンを一貫して“奇異なもの”として描き、赤電話を燃やすという何かを象徴しているような行動も取らせ、けれど「彼は日本に暮らす高校生」という視線も保ち、川を挟んで睨みあう者もいれば懸命に川を渡って結ばれようとする者もいる、暗転の後は音楽でリスタートして「音楽=明るさへの希望」と匂わせたり、融合の象徴としてのレオポンがいたり……と、楽しみながら考えさせるストーリーだ。
 1シーンずつ丁寧に撮っていることがよくわかるし、昭和の再現も上々だろう。

 純真な康介=塩谷瞬、一直線なアンソン=高岡蒼佑、悲しさと純潔とが同居するキョンジャ=沢尻エリカほか、みなそれぞれに上手くて役柄にも合っていたし、ネイティヴじゃない人がそこそこちゃんとした関西弁を話していたことにも好感を覚えた。

 ただ、映画としては退屈な作りであるともいえる。
 なにしろ、ケンカ→会話→ケンカ→会話という展開。いやホント、各シーンは人を殴っているか喋っているかのどちらか。
 バスト~ウエストのサイズ、しかも登場人物とカメラとは常に同じ距離感で絵のバリエーションは少ない。滑舌の悪い人が多い割に録音・整音の質が低くてセリフを聞き取りづらいところもあった。

 だから「よい映画」ではないと思う。でも「いい映画」の要素はある。
 たとえば本作における(実質的な)最後のセリフが、キョンジャが康介に発する「アホ」であること。
 この映画が、「頭を使え」といわれてもパッチギしか思いつかないようなアホたちを、無知とアホの違いを知って打ちのめされて、そのうえでアホであることを貫こうとする男を、約100年(あるいは約1400年)にも渡る日本と朝鮮半島との関係史・動きの中に置かれたアホたちを、大きなことをいっていても結局は乳房と太ももに目がくらむアホな男たちを、希望をこめて描いたものであることがハッキリとする。

 そう、この映画は、アホが世界を救うというメッセージなのである。

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