運命じゃない人
監督:内田けんじ
出演:中村靖日/山中聡/霧島れいか/山下規介/板谷由夏
30点満点中17点=監4/話4/出4/芸3/技2
【男と女が複雑に絡み合った、奇妙な夜】
貯金をはたいて“お城のようなマンション”を購入するも、恋人のあゆみに捨てられ、それでもまだ彼女のことを忘れられずにいるしがないサラリーマン、宮田武。親友で探偵の神田勇介に呼び出された宮田は、あゆみが結婚することを知らされる。ウダウダする宮田を見て勇介は、ひとりで食事をしている桑田真紀をナンパ、宮田にあてがう。だがそれは、やくざの親分をも巻き込む奇妙な夜の始まり。物語は、予想もつかない方向へ転がり始める。
(2004年 日本)
【しっかり練られて作られた、雰囲気のあるお話】
なるほど“脚本の映画”といわれることがよくわかる仕上がり。
時制を行き来し、登場人物それぞれの視点から同じ物語を何度も見せ、でも真相を知っているのは観客だけ(あ、浅井組の親分も知っているのか)、という体裁を取る構成も面白いが、それ以上に印象的なのがセリフだ。
真紀が泣く姿を見てうろたえる宮田が発する「あれ?」という言葉、あるいは彼女に電話番号を訊いて「気持ち悪いですか?」といってしまう宮田。勇介は「~しなさいよ」と説教口調、真紀はひたすら謝り続ける。
決してありきたりじゃないのに、ビミョーに間が抜けているのに、台本に印刷された文字が見えてしまうのに、なぜかナチュラルに思えてしまう言葉でストーリーが語られる。
そのビミョーなナチュラルさ加減が心地よい。
それぞれの言葉と役者が、いいマッチングを示す。中村靖日が醸し出す宮田の堅苦しさと一途さと情けなさ、調子よくて打算的だが友だち思いの心は本当なのだろうと思わせる山中聡の勇介。真紀・霧島れいかと、あゆみ・板谷由夏からはそれぞれ「ちょっと近寄りたくないかも、と思わせる部分も含めての魅力」が立ち上っているし、浅井親分役・山下規介も場を締める。
キャスティングのよさも、この映画が成功した大きな要因だろう。
本来は嫌いな引きの絵が多い+カットが少ない画面作りだが、本作に限ってはそれが“味”として機能している。
安っぽさを感じる音楽も、画面の邪魔はしていないし、急に鳴り止んだり再開したりして「運命を引き寄せる瞬間」を表現するなど、使いかたの上手さを感じる。組長の着信音は笑えるし。
カットとカットのつなぎ目でコマがぶれる(荻上直子監督の『バーバー吉野』もそうだった。PFFスカラシップ作品の特徴なの?)編集を除けば各ピースは上質だし、それらを1つにまとまる手際も見事だ。
ただ、どこか窮屈な映画になってしまった、とも思う。
展開やセリフがよく練られ、練られすぎているゆえに、その練り上げられたものを役者やカメラが“ただカタチにしているだけ”という感覚、決められた通りに演じ、指示された通りに撮りました、みたいな。
それが悪いというわけじゃない。むしろ、それが映画だとすら思う。だから、ここでの“窮屈”は、撮りたいものをきっちり撮り切ったことに対する誉め言葉でもある。
それに、同じような窮屈さを感じた『グッバイ、レーニン!』(ヴォルフガング・ベッカー監督)よりも、自分の中の“情”の部分にささやきかける雰囲気は持っていた。
人間みんな自分勝手、でも捨てたもんじゃないよ、ひょんなことで運命は転がり出すけれど、それを止めたり引き寄せたりする魔法もあるんだよ、という暖かな雰囲気だ。
仕掛け映画ではあるが、仕掛けだけに頼らず、そうした“雰囲気”を作り上げたことも、本作の魅力といえるだろう。
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