隣人13号
監督:井上靖雄
出演:中村獅童/小栗旬/新井浩文/吉村由美/石井智也/松本実/村田充/三池崇史
30点満点中17点=監3/話4/出3/芸3/技4
【内気な青年は、唸りとともに凶暴化を遂げる】
ボロアパートへと越してきたばかりの青年・村崎十三。気が弱そうに見える彼の心の中には、焼け爛れた顔の「13号」が別人格として棲んでいた。十三の新しい勤め先にいたのは、事あるごとに後輩をいじめる暴走族あがりの赤井。この赤井こそが、小学生時代に十三をいじめ、13号が生まれるきっかけとなった男。復讐心を次第にふくらませる13号は、アパートの隣人や同僚の関、赤井の妻や息子らを巻き込んで暴走していく。
(2004年 日本)
【復讐の映画ではなく、哀しみの映画】
からかったりからかわれたり、泣かしたり泣かされたりしたことはあるけれど、陰湿な類のいじめは自分の周囲にはなかったと思う。少なくとも硫酸だか塩酸だかを顔にぶっ掛けるバカはいなかった。知らず知らずのうちに誰かの恨みを買っている可能性も、なくはないが。
個々の経験によって本作に対する感想もさまざまにわかれるのだろうが、1本の映画としてはしっかり作られているように思う。
フィルターまで駆使して画面に明と暗を作り、全体の空気感を、作品世界にマッチした澱んだものに統一。つるっと垣間見える吉村由美の肩紐など見せたいところをきっちり見せるなどフレーミングの上手さもあるし、意外なタイミングで意外なところにカメラが入り込むのも面白い。オレンジのダウンジャケット=遠目で目立つ衣装を生かして「いま動いているのは十三なのか13号なのか」とハラハラさせる引き目の画角もいい。
微妙に1カット/1シーンが長い気もするが、それが後半、赤井を追い込んでいくところでは味となっている。
もうちょっと中村獅童には狂って欲しかったとも思うし、赤井の妻のキャラクターも掘り下げ不足だが、小栗旬を含めて各々適役だろう。
ついでに十三・少年期の小笠原準君や、赤井・少年期の名もなき悪友をやった原精君で、ショタのハートもガッチリ。
こうしたパーツはまずまず整っているので、逆に中盤からは、そのまとめかた、風呂敷の畳みかた、お話をどっちへ持っていくのか、そんなことが不安になる(原作は未読)。
だって、別にそいつに罪はないだろうという奴まで13号は手にかけちゃうし、その割に暴力描写は思ったほどショッキングではなく「怖がらせることが目的のサイコホラー」では明らかにない、という雰囲気。
で、あのエンディング。ここに至って「あ、これは暴力とか怒りとか狂気がテーマではなくて、『哀しみ』の映画なんだ」とわかる。
赤井は、どう考えたってクズ。もう、細かな人物描写なんか入れる必要がまったくないくらいの、薄っぺらな、ある意味では哀しい人間。そんな赤井から、あのひとことを引き出したいと何年間も思い詰めてきた十三もまた、赤井と同じくらいに哀しい人間だ。赤井の妻、死神、十三の隣人、関君からも同じような哀しみ、クズ人生を精一杯生きることの空しさが立ち上る。
そんな哀しさを「澱んだ空気、沈んだ青」のトーンで描いたこの映画、表現したいことをちゃんと表現しました、というレベルに達している、しっかり作られた作品だと思う。
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