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2006/10/09

ヴェラ・ドレイク

監督:マイク・リー
出演:イメルダ・スタウントン/フィル・デイヴィス/ダニエル・メイズ/アレックス・ケリー/エディ・マーサン/エイドリアン・スカーボロー/ヘザー・クラニー/ピーター・ワイト/ルース・シーン/レスリー・シャープ/ジム・ブロードベント

30点満点中18点=監4/話3/出5/芸3/技3

【心優しい主婦が重ねてきた秘密の日々】
 1950年代のロンドン。自動車修理工の夫スタン、洋服店に勤める長男シド、口数の少ない長女エセルとともに暮らす家政婦ヴェラ・ドレイク。エセルは好青年のレジーと交際を始め、スタンの弟フランクには待ち望んだ子どもが生まれそう。幸せな日々を送る心優しい彼女には、実は“裏の顔”があった。望まぬまま妊娠してしまった女性からの求めに応じ、堕胎を請け負っていたのだ。しかし、やがて彼女の“仕事”は警察の知るところとなる。
(2004年 イギリス/フランス/ニュージーランド)

【淡々とした空気の中に密度が潜む作品】
「ロンドンの○○に住む家政婦ヴェラ・ドレイクが人身保護法違反で逮捕された。約20年に渡り、多くの女性の中絶手術を請け負っていた疑い。うちひとりが施術後に体調不良を訴えて医師の診察を受けたことから発覚した。警察によるとヴェラは容疑を認めており、また報酬はもらっていなかったとのこと。家族はこの事実を知らなかったという」

 いってしまえば、それだけの話である。物語には驚くべき部分も、ヒネったりタメたりしてドラマティックに盛り上げようという工夫もない。ただ出来事が淡々と積み重ねられる
 にも関わらず、とてつもない緊張感に満ちている。序盤、身寄りのない真面目な青年リジーを食事に招待するシーンには、ただの茶飲み話、しかもその後のストーリーには特に影響を与えない場面なのに、ヒリヒリとした空気が漂う。
 その理由がわからない。ただ「なんでもない場面を注視させる圧倒的なパワーを持つ」としか表現のしようがない。

 1つには、周到な絵作りがあるはずだ。カメラは暑苦しいまでに人物に寄り添う。出来事を、俯瞰することはないが、覗き見するという意識を保つ。アパートの窓から見下ろし、苦しそうな表情を見上げるように撮る。その絶妙な角度が緊迫感のある画面を作り出しているのだろう。

 また、なんでもないように思えるシーンにも家族それぞれの暖かさや歴史や価値観をさりげなく埋め込み、また、やや長めのカットを採用して各役者の芝居を大切にしている点も、感情移入を誘う配慮として効いている。

 その役者たちもまた、それぞれの役割をまっとうする。イメルダ・スタウントンについては、いわずもがなだろう。渾身ではあるが必要以上には気張らず「良かれと思いつつ、あるいは罪悪感に目をつぶったまま『仕事』を繰り返し、発覚した際にただただ悲嘆に暮れる平凡な主婦」を、これ以上ないリアリティで演じ切る。有名スターを安易に配しないキャスティングもまた、物語からウソっぽさを排するのに貢献していたように思う。

 そうして知らず知らずのうちに、なんていうことのない話にのめり込み、いや、なんていうことのない話ではないじゃないかと気づかされる。あくまでも淡々と出来事を紡ぎながら、「じゃあ、どうすればいいのか」「命とは何か?」「家族とは?」といった問題提起を目一杯に詰め込んで、観客にそれぞれの回答を強いるのだ。回答を強いられるからこそ緊張感がある、ともいえるだろう。

 ふと「この映画って、子ども(少年・少女)が出てこないよな」と思い至る。子どものいない世界って、いかに寒々しくて、いかに薄い色合いであることか。そんな世界で“普通の家族”がどのようにして小さくも温かな幸せを築き上げているのか、その幸せを守るためにどんな代償を支払わなければならないのか、そうしたことがひっそりと綴られている2時間である。

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2004年 フランス・イギリス・ニュージーランド 監督・脚本:マイク・リー 製 [続きを読む]

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