トンマッコルへようこそ
監督:パク・クァンヒョン
出演:シン・ハギュン/チョン・ジェヨン/カン・ヘジョン/イム・ハリョン/ソ・ジェギョン/リュ・ドックァン/スティーヴ・テシュラー/クォン・オミン/チョ・ドッキョン/チョン・ジェジン
30点満点中19点=監4/話4/出4/芸3/技4
【山間の静かな村に迷い込んだ兵士たち】
朝鮮戦争が激化する1950年代。「子どものように純粋な」との意味を持つ山間の村・トンマッコルに、6人の兵士が迷い込む。北朝鮮からは将校と下士官と少年兵、韓国からは脱走兵と衛生兵、そして撃墜された米軍パイロット。はじめは反目しあっていたものの、戦争が起きていることなど知らない村の様子に癒されていく6人。イノシシ退治、芋ほり、ソリ遊び、収穫祭……。だがそんな平和な村に、戦争の影が忍び寄ろうとしていた。
(2005年 韓国)
【映画的であることの面白さ】
相変わらず、この国の映画は隠喩に満ちている。
たとえばトンマッコルは、朝鮮半島そのものか。米中ソに向けられたかのような「去るくらいなら来るな」というセリフ、あるいは民をまとめる秘訣として語られる「たくさん食わせる」という言葉。本当は銃など握りたくなかった人々の思いがカタチになって、ここにある。
頭の悪い女=ヨイルもまた、民族を示すものと考えて無理はあるまい。何も知らぬまま無邪気に受け入れ、挙句の果てに蹂躙される存在。
史実にある「避難民を見殺しにする橋の爆破」も描かれており、朝鮮戦争についての予習や読解の必要性を感じさせる内容といえる。
お話としては、ベタだろう。本来は敵である者たちが、大切なものを守るために力を合わせる。そのフォーマットは、さまざまな映画で試みられてきたものだ。
堅苦しくて古めかしいニオイを持ちながらも、しかし本作が感動を呼ぶのは、歴史を知らなくとも感情移入できるようシナリオが練り上げられているからだろう。
戦争によって何が失われるか、あるいは「世界は、あるがままにしておけばいい」という普遍的なメッセージが語られていく。
誰にも追いかけられないで自由に飛ぶ蝶たち。「砂浜がなければハマナスは咲かない」という歌。畑仕事をする者と、働き手のために昼飯を作る者。助けられる力を持つ者は、そうすればいい。助けたいという思いを抱いた者は、そうすればいい。雨が降れば屋根の下に入ればいい。
そんな、生きかたの基本。損得や主義主張なんて放っぽって、この冬に食べるものを「みんなで何とかしよう」と思えれば、銃なんて必要ないのだ。
また「映画として成立させること」を第一に考えた撮りかたが印象的な作品でもある。
まず、1カットずつが実に美しい。干された軍服、立ちションする兵士たちの姿までが“絵”になっている。緑広がるロケーションも抜群だ。
かといってヴィジュアル優先に陥らず、弾けるトウモロコシや握り締められた旗など見せるべきものはしっかりと見せ、かと思えばあえて狭い範囲を撮ることで「いま、どういう状況なの?」とやきもきさせ、回想と現在のオーバーラップ、揺れるカメラで醸し出される臨場感、綺麗ごとで終わらせないための迫力の戦場描写、いちど登場させたアイテムを再度活用するなど、映画ならではの表現に留意した作りとなっている。
ともすれば「おバカ」に堕してしまうイノシシ退治のシーンも、6人が心を通わせあうという、つまりありえない設定に説得力を持たせるためのファンタジーとして機能する(いつアシタカが出てくるかと気が気じゃなかったけれど)。
もとは舞台劇だというが、その名残を感じさせないほど“映画的”だ。
キャスティングも絶妙で、兵士6人の(見た目も含めた)キャラクターの描き分けが見事。それぞれが笑顔や苦悩を表情にたたえて、兵士が単なる殺戮のための駒ではなく、生きた人間であることを体現する。
そして、ヨイルを演じたカン・ヘジョン。『オールド・ボーイ』とはまた違った方法で“無垢”を表現してみせた。とびっきりの美人ではないが、アップの美しさという点では世界トップクラスではないだろうか。少年兵テッキや脱走兵ピョの顔を覗き込むその表情だけで、涙を誘う。
やがて物語は、エンディングへ。花が呼び覚ます悲しみに続いて、作中に登場するあるアイテムを活用したエンドロールが心憎い。歴史の教科書には載らないけれど、大切なものを守ろうとして命をかけた者たちが、確かにここに存在した。その証明と記憶が、人々を争いから遠ざけるきっかけになりはしまいか、そんな祈りにも似た、映画的な“まとめ”。
単なる「舞台劇の映画化」にとどまらず、いいたいことを表現するための手段として映画を選んだ意味を原作・脚本家や監督がしっかりと考え、その考えをきっちりと形にしている。
テーマ性よりもむしろその仕事ぶりが「はい、映画を観させていただきました」と感じさせ、それゆえに満足と感動を覚える作品である。
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