大停電の夜に
監督:源孝志
出演:本郷奏多/香椎由宇/田口トモロヲ/品川徹/井川遥/原田知世/豊川悦司/田畑智子/吉川晃司/寺島しのぶ/宇津井健/淡島千景/阿部力
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4
【闇の中で交わる、人生と恋】
クリスマス・イブの夜、大停電に襲われた首都。空を見上げる少年と手術を控えたモデルの少女、死期間近の父を見舞う会社員、その愛人と妻、想い人を待ち続けるジャズ・バーのマスター、彼の姿を見つめるキャンドル・ショップの女店主、足を洗ったヤクザと彼の元恋人、突然告げられた事実に戸惑う老夫婦、上海からやって来たホテルマン……。闇の中で、それぞれの恋や人生が交わって、新たな1日を作り出していく。
(2005年 日本)
【極上の撮影で人と人の“縁”を描く映画】
ちゃあんと“映画”している作品だ。意外にも某サイトでは評価が低くて『容疑者 室井慎次』(君塚良一監督)よりも点が低いくらいなのだが、個人的には逆、しかも大差でこっちが勝っているように感じる。
まず、色の質感、冬の空気の冷たさ・重さの再現が、かなりいい。日本映画にしては珍しいクォリティとニュアンスだなと思ったら、撮影監督の永田鉄男はフランス在住、セザール賞の撮影賞受賞者なのだとか。そういうクラスの人がきっちり仕事をするだけで、映画は映画らしくなるものなのだな。
撮影の良さに隠れてしまっているが、音の作りもなかなかのもの。店内、ホテルのロビー、地下鉄、屋外など、それぞれにライブ感のある録音となっているし、レコードの再生とBGMがつながるなど、音楽の使いかたもいかにも映画っぽい。
これらを使いこなす演出の腕も水準以上だろう。適確なカット割、エピソードからエピソードへのふんわりした切り替わり、電気が消えていくタイミングなど、語り口のリズム感が良好で、しっかりと最後まで見せる。
ストーリー・構成的には、少々無理があるというか、練り切れていないという印象が、なくはない。停電によって起こり得ることはそれなりに散らしてあるけれどまだまだ足りないとも感じるし、別にその人とその人を出会わせなくたっていいじゃん、1つの話と別の話の結び付けかたに説得力がないよね、という感じ。
これは『ラブ・アクチュアリー』(リチャード・カーティス監督)もそうだったが、複数エピソードを平行して描く映画の宿命かも知れない。アイディアと体裁だけが先走って強引になってしまった状態、といえるだろう。
また本作の場合、「しばらく会わないうちに他の人と結婚していた」という状況が重複していて、エピソードのバリエーションでも不満が残る。
ただ“強引さ”の裏に1本の芯が通っていることがわかるので、傷は小さくてすんでいる。
その芯というのが、縁(えん)。タイミングといいかえてもいいのかも知れない。どうしようもできない運命というよりも、それぞれの人がそれぞれの転機で自ら選んだ道によって、その後の人生が左右され、結ばれたことも結ばれなかったことも、すべてはその選択に起因する。そういう意味での縁である。
そして(ある1名を除いて)すべての人が、縁を確認するために、あるいは縁を断ち切るために、対象となる相手に実際に会いに行く。文字と記号だけによるコミュニケーションが蔓延する現代社会にあって、顔を合わせる、おもむく、直接語る、そういう方法をもって思いを伝えようとするのだ。そういった、作りの一貫性が清々しい。
よくよく考えれば、本作の登場人物たち、みんな不幸せである。いままで信じていたものが、確かなものではなかったと気づかされる人ばかりだ。そんなエピソードで満ちている。だがそれを「どうしようもできないこと」と片付けずに、恐る恐るではあるけれど、何か行動を起こそうとする。そんな、人の強さ弱さを感じられる“映画”である。
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