ロード・オブ・ウォー
監督:アンドリュー・ニコル
出演:ニコラス・ケイジ/ブリジット・モイナハン/ジャレッド・レト/イーサン・ホーク/イーモン・ウォーカー/サミ・ロティビ/イアン・ホルム
30点満点中17点=監4/話3/出3/芸3/技4
【世界を渡り歩く武器商人。いなきゃこの世は成り立たない】
ブルックリン育ちのウクライナ移民、ユーリー・オルロフ。両親が経営するレストランを手伝っていた彼は、ある日、弟ヴィタリーを引き込んで武器売買の世界へと身を投じる。すぐさま才覚を発揮したユーリーは、故郷ウクライナの軍やアフリカの独裁者たちとのパイプを築き、裏社会になくてはならない存在へと上り詰める。が、妻エヴァや息子のニッキーには正体を伏せなくてはならない。ICPOの刑事バレンタインの捜査の手も迫る。
(2005年 アメリカ)
【まずまずよくデキているけれど、ちょっと食い足りない】
レンタルショップのレジでお兄さんが「これ、いいですよ!」とコーフン気味に話す。「世界の現実が見えるんです」
なるほど、まずまずよく出来ているとはいえる。確かに世界には、戦争と武器、そこに群がる人、サッカー、人間の欲求と嗜好を刺激する媒体(すなわち広告)、SEXといったモノが“ない場所”は存在しないことがわかるし、いかにこの世が詭弁に満ちているかもよくわかる。
そして、事実をもとにしながらもきっちりとストーリー映画に仕上げようという意識で作られていることにも、好感が持てる。映画という表現手段でしか成し得ないオープニング、マシンガンの銃撃とレジスターを叩く音とのオーバーラップ、早送り、ロケーションを多用したリアリティ作りなど、映画ならではの楽しさがいっぱい詰まっている。
カメラはよく動くだけでなく、広さ、奥行き、モノの色をしっかりと捉えて各場所の“空気感”をしっかりと映し出す。
ただ、これを「世界の現実が見える、いい映画」と手放しで褒めることには抵抗がある。
ユーリーがこの世界に足を踏み入れる動機が弱い。まぁそれは「簡単に裏社会へと入っていけるのが社会の現実」と納得するとしても、あまりに簡単に商売がうまく運びすぎ。武器商人としての才覚の描写も足りない。ナレーションベースの演出も、少々クドすぎだ。
ドラッグに平穏を求め、ついには暴走するヴィタリー君のキャラクターも立っていない。エヴァの心労も伝わってこない。
決定的な弱点は「そんなことまで……!」といった驚きがないこと。あるいは驚きを驚きと感じさせるほどのストーリー構成力が足りないこと。
全体として、ユーリーをあっちへこっちへ“動かす”ことに気を取られすぎて、テーマの訴求やドラマを深く掘り下げることが疎かになってしまった感がある。
スマートにまとまっていて観やすい映画ではあるんだけれど、インディペンデントならもっと、鑑賞後にユーウツな気分になるくらいの「!」を盛り込んでくれてもよかったんじゃないかな。
そういう「食い足りなさ」が残る作品だ。
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