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2006/12/14

スタンドアップ

監督:ニキ・カーロ
出演:シャーリーズ・セロン/フランシス・マクドーマンド/ショーン・ビーン/トーマス・カーティス/エル・ピーターソン/ジェレミー・レナー/リチャード・ジェンキンス/シシー・スペイセク/ウディ・ハレルソン

30点満点中18点=監4/話3/出5/芸3/技3

【鉱山では、女は邪魔者であり、嘲りの対象でしたなかった】
 夫の暴力から逃れ、息子のサミーと娘のカレンを連れて、ミネソタに住む両親の元へと身を寄せたジョージー。自分の稼ぎで子どもたちを育てたいと考えた彼女は、幼なじみのグローリーの紹介で鉱山に職を得る。だがそこでは、男の仕事を奪う存在として女性は歓迎されず、侮蔑と嘲笑、レイプ未遂などのセクシャル・ハラスメントに晒される。耐えかねたジョージーは、グローリーの友人で弁護士のビルを頼って会社を訴えるのだが……。
(2005年 アメリカ)

【世界の真理を知る。役者の力に酔う】
 人として扱われないこと、人間社会からオミットされること、その悔しさや辛さが、ジョージーの瞳から溢れ出る。だがこれは単に、セクシャル・ハラスメントとその訴訟という“事件”、そこに巻き込まれた人たちの“様子”を映しただけの映画ではない。
 望まない妊娠、ぬいぐるみやホッケーやトランポリンや酒といったささやかな幸せ、自分の料理よりも先にまず娘の皿にある肉を切り分ける母としての優しさ、置手紙とサンドイッチ、突然の病気、「人を憎む覚悟」、「現実の前で法は無力」……。
 この世界が何でできているのかを、積み重ねるようにして描き出す映画である。

 印象的なのは冒頭、カレンの手の中。その瞬間までこのような表現など思いつかなかったのだが、実は「裸にひん剥くことのできる少女」といいあらわすことのできるおもちゃ=バービー人形がカメラに捉えられる。
 そう、この世界は、どこかイビツなのだ。

 そして、そんな状況から抜け出して、世界を自分の手に取り戻すために、絶望を乗り越えるために、必要なのは家族であり、友人であり、なによりも自分自身が立ち上がる(スタンドアップ)ことだと本作は告げる。
 思えば『クジラの島の少女』でも、社会と個人との関係、個人と個人との関係、懸命さや演説がキーワードとなっていた。ひょっとするとこの監督、「まず自分の心の中にあるものを言葉と行動にすること。それが『集団や既成概念の中に置かれ、殺されつつある個人』という状況を打開するための原動力になる」といったメッセージを、胸の内に抱えているのかも知れない。

 こうしたメッセージを伝えるピースとして、本作では、演技陣が極めて重要な役割を果たす。観るたびに違う顔を、そして「そこにふさわしい顔」を見せてくれるシャーリーズ・セロンは、いわずもがな。父ハンク役リチャード・ジェンキンスの皺、母アリス役シシー・スペイセクの悲しき横顔、「できることをまっとうする男」を演じ切ったビル役ウディ・ハレルソン(芸の幅が広がったなぁ)と、いずれも上々だ。
 極みは、“無感情”という視線で激しい感情をフィルムに叩きつけたグローリー役フランシス・マクドーマンドと、こういうかっこよさ、こういう強さもあるということを強烈に示したカイル役ショーン・ビーン。このカップルのような人たちがたぶん、歪曲して汚れた世界を、これ以上どうにかなってしまわないように支え、少しずつ浄化しているのだ。

 不満点も、ある。ジョージーの屈辱と父ハンクの悔しさが我慢ならないところまで来ていたことはわかるのだが、そのうえで訴訟や理解へといたる直接の動機がやや希薄であるように感じられた。その行動はそれぞれにとって妥当かつ正当な選択だったとは思うが、何か強力なきっかけ、説得力のある伏線描写が欲しかったところだ。

 冒頭と同じくらい印象に残るのがラストカット。緑と、削られて赤茶けた土地。美しいものと、歪なものとが入り混じって作られている世界。その中に、曲がりくねりながら1本の道が伸びる。
 人間は苦しみながら、愚かさと健やかさに挟まれながら、進むべき道を拓いていくものなのだ。

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2005年 アメリカ 2006年1月公開 監督:ニキ・カーロ 製作:ニック・ウ [続きを読む]

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