ゾンビ/ディレクターズカット完全版
監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:デヴィッド・エムゲ/ゲイラン・ロス/ケン・フォリー/スコット・H・ライニガー
30点満点中17点=監4/話4/出3/芸3/技3
【蘇った死者が人を食う! 4人の男女が逃げ、戦う】
ゾンビ=蘇った死者たちが次々と人を襲い、人肉を食らう。TV局は懸命に報道を続け、州兵や警察はゾンビ駆逐に奔走するが、その数はあまりに多すぎた。ヘリコプターでカナダへと脱出を試みるリポーターのスティーヴンと局スタッフのフラニー、SWAT隊員のロジャーとピーター。途中、補給のために立ち寄ったショッピング・センターでひと時の平穏を味わう4人だったが、そこにも多くのゾンビが徘徊し、さらなる恐怖も忍び寄る……。
(1978年 アメリカ)
【恐怖映画ではなく、世紀末映画である】
いま観るとグチャグチャだなぁと感じる部分も多々ある。撮影や編集、音楽の使いかたといった技法は明らかに前時代のものだし、全体的に手作り感と間延びした雰囲気に満ちていて野暮ったく、アクションはグダグダ、どうしても17点以上のポイントはつけづらい。
だが、点数では計れないものが、この映画にはある。
のっぴきならない状況のTV局内。脳を破壊あるいは頭部を切断しなければヤツらを止められないという理不尽さ。消えていくビルの明かり。ワイパーで拭われる血。なぜか馬鹿馬鹿しさにあふれていると感じる閑散としたショッピング・センター内。そこに設けられた回転&スライド式ドアという“おしゃれ”がもたらすもの。ヒステリックにわめく学者。
殺戮されるゾンビたち。命なきマネキンと同一視されるゾンビたち。ゴミとして扱われるゾンビたち。略奪されるゾンビたち。アトラクションやビデオゲームを思わせるゾンビ狩り。ゾンビ以上の恐怖。生きていた頃の習慣。死体に囲まれたパラダイス。人の愚かさや諦観。
そうしたパーツ1つ1つが積み重ねられて、殺伐とした空気が作り出される。圧倒的に有利なはずの人間が、少しずつ追い詰められていく不条理さ、閉塞感が画面からあふれる。
ああ、そうなのね。これは恐怖映画ではなく、世紀末を描いた作品なのだなということが、ジワジワと腹の中に染み込んでくる。そして、主演4人を突き放しもせず、極端に心情的に近寄ることもなく、淡々と彼らの様子や行動を追う手法が、逆に、観る者を“もし自分がここにいたら”という気持ちにさせて、観る者の心も閉塞状況に追いやっていく……。
エンターテインメントでありながら、そういう「……」的な、言葉にならない沈んだ空気も味わえる、稀有な作品なのだな、これは。ン十年前に最初に観たときの、ロジャーの末路には「……」しか浮かばなかったものな。
この“空気”を、すべてのパニック映画は手本にしなければならない。そして実際に手本にされているはず。そういう存在意義を映画史の中にしっかりと刻んだことが感じ取れる。
ここから何も学べず、30年も前のCGなどなかった時代に作られた本作に及ばない恐怖&アクション&世紀末映画があるとしたら、それこそ駆逐されなければならないだろう。
「They must be destroyed on sight!」
●過去に感想をアップしたゾンビ映画
『28日後…』
『アンデッド』
『ドーン・オブ・ザ・デッド』
『ランド・オブ・ザ・デッド』
『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』
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