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2007/01/31

オーシャンズ12

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー/ブラッド・ピット/ジュリア・ロバーツ/キャサリン・ゼタ=ジョーンズ/ヴァンサン・カッセル/マット・デイモン/バーニー・マック/ドン・チードル/アンディ・ガルシア

30点満点中16点=監4/話2/出3/芸4/技3

【追い詰められた泥棒一味が取った策は?】
 カジノ王ベネディクトからまんまと大金を奪ったダニー・オーシャンたち泥棒一味。だが居所を突き止められ、利子をつけての返済を要求される。知恵袋ラスティの提案で欧州へ渡り、金になる“仕事”を見つけたダニーたちだったが、「我こそが世界ナンバー1の泥棒」と自負しダニーをライバル視するレッド・フォックス、ラスティの元彼女でユーロ警察の捜査官でもあるイザベル、ダニーの妻テスらの思惑が絡み合い、事態は混乱を極める。
(2004年 アメリカ)

【身勝手な作りの非エンターテインメント】
 おっかなびっくり作っているなぁ、楽しくないなぁ、音楽だけはセンスいいんだけれど(サントラ買っちゃった)、というのが劇場で前作を観たときの印象だった。当ブログのログを見ても「せっかくの題材とキャストをそろえながら、さしてスリリングでもなく、何となく自己満足気味というか、細部まで追い込み切れなかった『オーシャンズ11』を観て失望した」なんて記述もある。
 加えて『ソラリス』で「やっぱこの監督って自分に“合わない”や」というイメージが決定づけられたもんで、『12』鑑賞を躊躇っていた。

 で、結局のところ今回もほぼ同様の感想に落ち着く。ある意味「せっかくの題材とキャストをそろえながら云々」の部分は、前作以上にヒドい。だってジョージ・クルーニーのダニー、なぁんにもしてないんだもん。ブラッド・ピットのラスティなんか、口説いてるだけだもん。マット・デイモンのライナスも、うなだれてるだけだもん。
 お前ら絶対、他の仕事の空き時間にコレを撮影しただろ、という感じ。

 まぁそのぶんキャサリン・ゼタ=ジョーンズは可愛さ満開、ヴァンサン・カッセルも美味しい役割を与えられて「やるじゃん」と思わせるなどゲストキャラが光っているわけだが、トータルでは「オールキャストがドタバタしているだけ、泥棒どうしの意地の張り合いが『なんでやねん』のオチで終わり、11人も12人もいなくたって構わない説得力のないストーリー」という、なんともマヌケな映画になってしまっている。
 有名な俳優さんいっぱい出てるし、泥棒の話で面白そうだし、と短絡的に考えて鑑賞した人(前作を観たときの自分がそうだった)を「う~ん、これって面白いのか?」と悩ませるデキである。

 ただ、どうしてこの監督が自分に合わないかについての発見はあった。要するに“身勝手”なのだ。
 1~10の10ステップからなるお話をテンポよく描きたい場合、たとえば1-3-5-7-9-10という「端折りかた」を通常のストーリーテリングとするなら、ソダーバーグは身勝手に1-2.5-4-6-8.5-10とつなぐんだな(0.5は本筋と関係のない与太話)。既存の映画文法とは異なる手法でまとめておいて「え、これじゃダメなの?」とソラっとぼけているようなイメージ。

 いやダメじゃないんだけれどね、それじゃあ「痛快クライム・ムービー」にならないし(ハナっからそんなもの作る気はないのかも知れないが)、体に染みついたテンポと生理的・波長的に合わないから、そのズレを克服するための時間をもう少しくれよ、と、いいたくなる。
 M・ナイト・シャマランが「つまらない話だが目一杯思わせぶりに引っ張って面白そうに感じさせる」身勝手さを持つとするなら、こちらソダーバーグは「つまらない話の、つまらない部分はサラっと流して、なんとなく面白そうだなと思わせるけれど実際のところはよくわからない」という身勝手さで勝負するタイプか。

 幸いにも、この「合わない理由=身勝手」に鑑賞中に気づいたために、前作時とは違って、なるほどそういう撮りかたもあるのね、と好意的に観ることができた。ジュリア・ロバーツの扱いなんかモロに「自己満足」なんだけれど、これも「突き抜けた身勝手」だと思えば爆笑できる。
 それに、この身勝手さが不思議にも、70年代の(松田優作とか柴田恭平とか藤竜也とか片桐竜次とか志賀勝とか岸田今日子とかが出てる感じの)日テレ製ドラマにも通じる猥雑さ・ジメっとしたスタイリッシュさに結びついているのも面白い。

 つまりこれは、万人が満足できるエンターテインメントではない(たとえ配給会社がそういう路線で売っているとしても)。身勝手な作家が身勝手なリズムで語るつまらないストーリーを、その身勝手さゆえに面白いと感じられる人だけが楽しめる映画だろう。

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