5IVE
監督:ドミンゴ・ヴァーラ
出演:ダリル・シムズ/デヴィッド・アドリオール/ジョヴァンナ・ブロカウ
30点満点中17点=監4/話4/出3/芸3/技3
【エレベーターに閉じ込められた4人】
ある朝、地震が発生。携帯電話で大きな商談を進めていたビジネスマンのマイケル、メッセンジャー・ボーイのエリック、妊婦のジェニファー、ビル清掃員の老婦人が乗り合わせたエレベーターは13階近くで停止し、4人の男女は中に閉じ込められることになる。取引のチャンスを逃しそうになるマイケル、心臓発作を起こす清掃員、なかなかやってこない救助、余震……。次第に焦燥と錯乱がエレベーター内に募り、遂にマイケルは銃を取り出す。
(2002年 アメリカ)
【スリラーではない。ドラマとしての佳作】
まんま『SAW』(ジェームズ・ワン監督)をパクったようなDVDのパッケージに騙されてはいけない。これはダマシ系ミステリーでもサスペンスでもない。いわゆるハヤリのソリッド・シチュエーション・スリラーを期待すると肩透かしにあう。ま、そういう意味では観る人を騙すことに成功しているわけだが。
序盤、物語の中心となる3人(マイケル、エリック、ジェニファー)の背景説明の手際があまりよくないうえに、なんというか“突き抜けた”ところのない平凡な空気と絵だし、役者たちはフツー。エレベーター内だけで話を進めるのでは「もたない」と考えたのだろう、外部の人たちの様子も適時挟み、そうすることで緊迫感は薄まるし……と、ありゃりゃ失敗しちゃったかなぁという印象を受ける。
が、中盤以降、この作品が何を描こうとしたものかがわかると(あるいはサスペンスやスリラーに対する期待を捨て去ると)、突然、面白い映画に変わりはじめる。
こいつは“ドラマ”である。しかも、至極真っ当な。
生活苦、病、親との不仲、突然のアクシデント、トラウマ、天災、大切な何か(または誰か)を失くしてしまうことの恐怖、苦しみを抱えながら生きること、そして死。人生には悲しいことが詰まっている。それぞれの要素をクローズアップして描いた映画も多い。
そんな中でこの作品は、人生におけるネガティヴな要素や経験はどこにでも誰の中にでも転がっていて、そのうちの何か1つだけがすべてではなく重要でもなく、ある人にとっては深刻なことが別の人には些細なことだったり、窮地に立たされたときの対応は人それぞれだったり、そうした「立場や価値観を異にする相手」に自分の窮状を理解してもらうのは困難であり、同じ苦難を前にしても協力して乗り越えていくなんてことは結構タイヘンなのだよ……といったことを教えてくれるものとなっている。
で、終盤になってタイトル『5IVE』の意味を悟らせ、さまざまな苦難や悲しみや衝突があったとしても、いや、苦難や悲しみがあるからこそ、懸命に生きていくことは尊いものなのだ、というメッセージを伝えてくる。
どちらかといえばテレビの2時間ドラマ・スペシャル的な内容で映画的な興奮やスケール感には欠ける。また前述の通りスリラーを期待して観るとズッコケるわけで、代理店の戦略には怒りを禁じえない(待てよ、そのまんま人間ドラマとして売るよりも観てくれる人は増えるはず。埋もれてしまいがちな「地味だけれど、よくできているドラマ」を売る方法としては、案外正解なのかも)のではあるが、きっちりと作られ、いいたいことを形にすることに成功した作品といえるのではないだろうか。
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