ダニー・ザ・ドッグ
監督:ルイ・レテリエ
出演:ジェット・リー/モーガン・フリーマン/ケリー・コンドン/マイケル・ジェン/ボブ・ホスキンス
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4
【犬として育てられた男、人としての目覚め】
金貸しのバートによって“番犬”として育てられたダニー。普段は大人しく臆病なほどだが、首輪が外され「殺せ!」と合図を送られると、凶力な格闘家と化す。銃撃による重傷を負い、盲目のピアノ調律師サムに助けられたダニーは、サムと、その義理の娘である音大生ヴィクトリアからピアノの手ほどきを受け、次第に人としての優しさに目覚めていく。初めて触れる家族の温かさ。だが、新たなトラブルが彼のもとに近づこうとしていた。
(2005年 フランス/アメリカ)
【意外と日本人好み? 意外な拾い物?】
多少強引なところもあるが、ツボを押さえ、必要な事柄を過不足なく盛り込んで、わかりやすくて、落ち着くべきところへ収束していくストーリー展開。見せ場となるアクション・シーンと、緩やかに人と人とが触れ合うドラマ・パートの両立。物わかりのいい爺さん、ちょっとお転婆な娘、屈折した悪役といったキャラクター設定……。
これらはみな、単行本1~2巻からなる日本製中編コミックの遺伝子を受け継いだ作りといえるだろう。欧米のアクション+ドラマ映画には時おりストーリーの破綻や「なんやねんコイツ」的な人物の不可解な行動が見られるものだが、本作では「これこれこういう理由で、こうなった」という整合性や連続性がしっかり保たれていて、なんとなく、コミック誌編集者によるストーリー・ディレクションのようなものを感じてしまうのだ。
原作は講談社からコミックで出ているよ、といわれれば「ああ、そうなんだ」と疑いもなく納得してしまいそうだ。
そして、そんな日本人好みの物語を、上手く映像化した作品であるともいえる。この手の映画には不可欠なスピーディでスタイリッシュなカット/編集でグイグイとお話を進めるし、同監督の『トランスポーター』にも「当たり前のように思えるけれど、意外と面白い」アクションが見られたが、今回もトイレの中やアングラ競技場などの状況を生かした格闘で感心させる。
キャスティング・演技も光る。当初「ボブ・ホスキンスだと怪しさが足りないだろ」という気もしたのだが、独特のイントネーション(グラスゴー訛りなのか移民風なのかはわからんが)で小悪党っぽさを発散。モーガン・フリーマンはいつにも増して肩の力を抜いたお芝居で(なんの違和感もなく盲目の人物を演じられるんだからイヤになる)、作品に自然としっとり感を与える。
で、このふたり、明らかに「まぁ今回はジェット君を引き立てることに徹しましょう」という奥ゆかしさにあふれているわけだが、その気遣いに主役ジェット・リーは見事に応える。アクションの切れは当然のことながら、おどおどや“目覚めていく明るさ”をわかりやすく好演。リー・リンチェイを名乗っていた『少林寺』(チャン・シン・イェン監督)から早23年、この人ももう40歳オーバーですか。これまでは「無骨で一本気で熱さにあふれていて、でもどこか冷徹」という武術家の顔しか知らなかったけれど、こういうお芝居もできるのだなぁ。紛れもなく、ジェット・リーにしかできない役柄であり、ジェット・リーだからこそ成立した映画だと感じる。
ちょっと性急なところもあり、もう少し情感を込めた場面を増やしてもよかったし、クラシックの名曲だってもっと上手く活用できただろう、とも思うが、全体に好感が持てるし、ジェット・リー+モーガン・フリーマンというとんでもないマッチングが奏でる驚きのハーモニーも楽しめる、意外な拾い物映画である。
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