エンパイア・オブ・ザ・ウルフ
監督:クリス・ナオン
出演:ジャン・レノ/アーリー・ジョヴァー/ジョスラン・キヴラン/フィリップ・バス/デヴィッド・カンメノ/ラウラ・モランテ
30点満点中16点=監4/話2/出3/芸3/技4
【私は誰? 彼は何者? 事件の真相はどこに?】
夫の顔を忘れてしまったアンナ。妻の記憶喪失を治療しようと官僚のローランは手を尽くすが、彼を信じられないアンナは精神科医マチルドとともに「自分は誰なのか」を模索する。いっぽうトルコ人街で発生した連続殺人事件を捜査するネルトーは、「裏金」「鉄の男」との異名を持つ汚職警官シフェールの助けを請う。被害者は、よく似た女性ばかり3人。やがてふたりは狂信者集団の存在、そしてアンナという女性の存在へと行き着く。
(2005年 フランス)
【なんだかなぁの非サスペンス映画】
CM出身という監督の演出センス、というか映像的なセンスは、まぁソコソコ以上だろう。
とにかく絵的アイディアにあふれている。ガラス越し、アンダー気味、グラフィカルな対称形など、真っ当なカットはほとんどないといっていい。それでいて単にヴィジュアル・オンリーに陥らず、撮るべきものを撮る適確さも持ちあわせている。
ただ、この映画、お話としての面白さがまったくない。
序盤は「裏に何かありますよー」「驚くべき真相が待っていますよー」といかにもサスペンス&謎解き作品の雰囲気を振り撒き続ける。そのダークな空気感はいいのだけれど、雰囲気だけで40分引っ張るのは長すぎる。
で、その“裏”とか“真相”は中盤以降で明らかにされるわけだが、伏線も何もなく唐突に、しかもセリフで説明・提示する。そこから強引に力まかせの解決へと持っていく。
この手の物語=サイコサスペンスって、事件に関わる人物の「心理的なもの」を描くべきなんじゃないのか。どのような生涯・価値観・気質を持つ者がどんな出来事をなぜ・どう引き起こし、それに対して捜査官がどのような心理で向き合うのか、そのあたりを核にすべきなんじゃないのか。
さらに「ああ、あのときのアレがここに結びつくのか!」という、謎を解きほぐす面白さを付加するべきなんじゃないのか。
そういう楽しさが、まったくない。
オモワセブリックに引っ張っておいて、いきなり「実はこういうことだったんですぅ、こいつの役目はこうだったんですぅ、こいつは生きていたんですぅ」と、前置きなしに畳み掛けて「はぁ?」と感じさせる。そして最後はバカアクション。日曜の夜あたりにテレビ放送で観るくらいがちょうどいいレベルの仕上がりだ。
まぁ『クリムゾン・リバー』(マチュー・カソヴィッツ監督)と同じジャン=クリストフ・グランジェとやらの原作(今回は脚本も)ってことでストーリーのまとまり・妥当性・終わらせかたには不安を抱いていたのだが、不安そのまんまのシナリオだった。
シャマラン作品にも「はぁ?」というところはあるが、あっちには「たいしたことのない話を、目いっぱいオモワセブリックに描き切る」という確信と信念と一貫性があるのに対し、こっちには「ぶわーと話を広げておいて、脈絡なく前起きなく解決を提示する、これが面白いのだ」という勘違いが満ちているように思える。だから、やっかい。
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