ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!
監督:ニック・パーク/スティーヴ・ボックス
声の出演:ピーター・サリス/ヘレナ・ボナム=カーター/レイフ・ファインズ
吹き替え:萩本欽一/飯島直子/大川透
30点満点中20点=監5/話3/出4/芸4/技4
【野菜畑を荒らす化け物、その正体は……!?】
レディ・トッティントンが開催する巨大野菜コンテストまで、あと数日。みんなの畑を荒らすウサギたちを退治するのは、発明家ウォレスとその相棒兼愛犬のグルミットが営む害獣駆除サービスの役目だ。最近太り気味のウォレスはウサギ回収マシンBV6000と性格改善機を組み合わせて「自分の野菜嫌いをウサギたちに移そう。そうすれば畑の被害はなくなり、僕も野菜好きになってダイエットに励める」と思いつくのだが……。
(2005年 アメリカ/イギリス アニメ)
【映画としての楽しさと完成度を味わえる作品】
シリーズ初の長編。あのコンパクトな味わいと独特の面白さがなくなるんじゃないか、との不安一掃、すこぶる楽しい“映画”に仕上がった。
そう、これは“映画”なんである。
ストーリー的には「それだけで1本映画ができるじゃん」と思えるくらいのアイディアをあちらこちらに盛り込んで、長編化にバッチリと対応。「あ、そういうことね!」と遅れてわからせるお話の積み上げかたや、AがあるからBが起こる、CのおかげでDになる、というストーリー・展開の連続性も楽しい。
相変わらず隅々まで丁寧に作られた美術、灯りと陰の使いかたが抜群に上手い照明、狭いところへ潜り込んだり1人称視点を巧みに使ったりするダイナミックなカメラワーク、場面をコミカルに彩る音楽と音響効果……。とにかく個々の仕事の水準が極めて高く、それをまとめ上げる監督のコーディネート能力もまた高い。
さまざまなパーツをキッチリと組み立てて密度が高くて見ていて面白いモノを作り上げる。これって、まさに“映画”じゃん。
とにかく、素晴らしいクォリティの演出。
スピーディなアクションシーンはそのへんにゴロゴロと転がっている「アクション大作」の何倍も楽しいし、シーンとシーンとの切り替えもおしゃれだし、間(ま)の取りかたも絶妙に上手い。決して美人ではないトッティントンさんを「ヒロイン」としてキッチリ意識させるってのも、キャラクターの扱いの上手さ=演出の巧みさだろう。
なによりグルミットにセリフがない(しゃべれない)ってことが効いている。セリフがないから言葉で状況を説明できない。だから「見せてわからせる」ということに徹底して取り組む。これって、まさに“映画”じゃん。
でも、単に「映画であること」を目指したわけじゃない。ウォレス&グルミットの発進シークエンスとか、ありえないんだけれどありそうに思えるファンタジックな物語&世界構築というのは「アニメーションならでは」のものだろう。グルミットの眉や耳、ウサギたちの表情と仕草、箱庭的な世界の広がりなどで「クレイアニメであること」も存分にアピールする。
2005年の米アカデミー賞・長編アニメ賞の受賞作なんだけれど、それにも納得。アニメじゃなくて作品賞にノミネートされてもおかしくない仕上がり(というか“映画魂とアニメ魂”)だろう。
ちなみに、この年の長編アニメ賞ノミネート作は、本作のほか『コープスブライド』と『ハウルの動く城』。いや、もうね、『ハウル』なんかここに並べるのは日本人として恥ずかしいっすよ。1位が本作、2位が『コープスブライド』で、残りは圏外、くらいの差でしょ。
映画として、アニメとして、クレイアニメとして、最大限できることをやり抜く。そういう作品こそ称えられるにふさわしい。
とにもかくにも、グルミット、サイコー! あとトッティントンさんの髪の毛に貼られた絆創膏もサイコー!
●シリーズ過去作
第1作『ウォレスとグルミット チーズ・ホリデー』
第2作『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』
第3作『ウォレスとグルミット、危機一髪』
短編集『ウォレスとグルミットのおすすめ生活』
※感想はアップしていませんが『チーズ・ホリデー』と『おすすめ生活』も見ました。どちらもこのシリーズならではの楽しさにあふれています。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント