Dear フランキー
監督:ショーナ・オーバック
出演:エミリー・モーティマー/ジャック・マケルホーン/メアリー・リガンズ/ジェラルド・バトラー/シャロン・スモール/ショーン・ブラウン/ジェイド・ジョンソン
30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4
【父の手紙、母の嘘、少年の声】
難聴の少年フランキーの楽しみは、もう顔も覚えていない船乗りの父デイビーに手紙を書き、返事を受け取ること。だがその返信は、母リジーが書いたもの。暴力的な夫からフランキーとともに逃げ出したリジーは、その事実がフランキーにバレないよう、偽りの手紙を書き続けていたのだ。ところがある日、フランキーの父が乗っているはずの船が、近くの港に入港することになる。リジーは勤め先のマリーに事情を話し、1日だけの父親役を探す。
(2004年 イギリス)
【小さく輝く、優しい映画】
家族や親子の信頼関係を軸とする「お涙頂戴物語」は、星の数ほど作られてきた。その中で、他を圧倒するような輝きを放とうとすれば“何か”が必要となる。
本作は特定の“何か”というよりも、トータルな質の高さでその要求に応えたといえる。
逃げ続けている母親、その原因となった夫、難聴の少年、海沿いの町といった設定・状況をきちんと生かしたストーリー/シナリオがいい。
ピアノをフィーチャーしたテーマ曲をはじめとする音楽がいい。悩む母親を演じ切ったエミリー・モーティマー、ピュアな心を持つ難聴の少年をナチュラルに表現したジャック・マケルホーンなど、俳優陣がいい。
窓を開けたときに流れ込んでくる街のざわめき、室内の反響、ダンスホールなど「その場」の空気感を生かしつつ、けれど不要な雑音はしっかりとカットしてある録音・音響の作りがいい。
これらをまとめた演出も上質で、たとえばリッキーから「お前の父さんは来ない」といわれた後のシーンでは、カメラワークと編集だけでフランキーの焦りや寂しさを表現してみせる。
様子は見せるけれど台詞は聞かせずに想像させる、シーンを思い切りよく転換してその間を見せずに想像させる、といった“映画的な手法”でまとめてあって、テンポのよさとIQの高さも特徴となっている。
こんな風に上手に描かれると、お話が、スっと心の中に入ってくる。
とにかく“嘘”で満ちたこの映画。けれど、それらはみんな優しい嘘ばかり(たぶんマリーが「弟よ」と答えたのも嘘だろう)だ。人はその優しさによって支えあっていること、登場人物ひとりひとりが優しさを胸の中に住まわせていること、人間には“優しさ”という属性のあること、デイビーは単に暴力的なのではなく「優しさが欠けている人物」であること……などが、染み渡るようにして観るものに届く。
小さいけれど、確かに輝きを放っている佳作である。
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