殺人の追憶
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ/キム・サンギョン/キム・レハ/ソン・ジェホ/パク・ヘイル/コ・ソヒ/パク・ノシク/ピョン・ヒボン
30点満点中19点=監5/話4/出4/芸3/技4
【雨の日の殺人鬼は、いま何処に……】
田畑が連なる農村で、若い女性の扼殺死体が相次いで発見される。いずれも手を縛られ、凶器は被害者自身が身につけていた下着。地元警察のパク刑事やチョ刑事らは、関係者をつぶさに調べ、時には暴力的な手法で容疑者に自白を強要するものの、真犯人はいっこうに捕まらない。ソウルからやって来たソ刑事は、犯行が雨の日におこなわれていること、被害者が赤い服を身につけていることを指摘、捜査の網は確実に狭められていくのだが……。
(2003年 韓国)
【何も得るものがなく、そして優れた作品】
長まわしの中でダイナミックに動く人物たちと、フレームからハミ出す人の顔。遠近自在の画面から、パワーがあふれる。バツっと強引に切り替えられる編集や、音楽による盛り上げかたも手馴れている。
ところどころに間の抜けた笑いを挟み、状況のシリアスさとの対比で違和感を誘うのは、この監督の得意とするところ。全編がジメジメとして薄暗い空気で覆われるのも、この人の好みなんだろう。
そして、無駄がなく、流れるようなストーリー展開。パク刑事の「人を見る目」が、テープレコーダーが、背中に張られた絆創膏が、点と点とをつないで1本の物語を紡ぎ上げていく。
力ずくで引き込まれる快感。
にも関わらず、この物語から得るものは何もないという皮肉。もちろん、つまらない作品だとか、見どころのない映画だといっているわけじゃない。
濡れ衣を着せられて拷問され、狂気に導かれる容疑者たちの“追われる側の地獄”の対として存在する、証拠がない、証人がいない、協力してくれる人もいない、袋小路に陥ってなおわずかな可能性を追い求めてあがく刑事たちの“追う側の地獄”が、みっちりと描かれる。
その地獄は、実は、いともたやすく抜け出ることができるものであることもラストで示され、締めにはパク刑事の、諦めと悟りと悔恨とがないまぜになった、つまりは地獄を経験した人にしか見られない顔が用いられる。
そこに問いかけも回答もない。ひたすら苦しみを描いた映画であり、観る側としても、教訓を得たり人生の意味や刑事・捜査という仕事について考えたり犯人探しのプロファイリングを楽しんだりするよりも、ため息をつくことを選ばざるを得ない映画になっているのだ。
実際に起こった事件を基にしており、犯人はいまだ捕まっていないとのこと。当時のことを知る人にとっては、さらにやるせなさの募る作品であることだろう。
すごい映画もあったもんだ。
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