ロスト・ストーリー~現代の奇妙な物語~
【7つの奇妙なストーリー】
8号室の女性に密かに想いを寄せる男の犯罪…『同じもの』/バーで知り合った男ふたりの謎解きゲーム…『ユーストン・ロード』/8枚限りの当日券を買えなかった老婆は…『立ち見席のみ』/女優イレーナ・ダグラスが働くスーパーは本日も盛況!?…『スーパーマーケット』/カウントダウンパーティに参加した若者ふたりとタクシー運転手…『大みそか』/愚痴と料理の不思議な関係…『ソーセージ』/飲んだくれ男の悲哀…『新しい一日』
(2005年 アルゼンチン/オーストラリア/イギリス/アメリカ )
30点満点中14点=監3/話2/出3/芸3/技3(平均)
【ゴミ箱の中ってのは、いいすぎかな】
恐らくは各国のCMやビデオクリップで活躍する監督が作っているのだろう、凝った映像だけが先走って、面白い映画を“創る”、あるいはストーリーを“語る”という作業は、ほとんどおこなわれていない。
そして、7本のショートストーリー集というより、ゴミ箱の中を覗いた感覚を味わえるオムニバス、という雰囲気が強い。
いや、ダメダメなものばかりというわけじゃない。それぞれに光る部分もある。寄せ集め(いっぺんに作られたものじゃないようだ)の割に全体のテイストも不思議と統一されている。役者は無駄に豪華だから飽きずに観ていられる。
ただ、企画会議で「こういうの面白いんじゃない?」と提案されてメモされて、結局は却下され捨てられたプロットを、たいして練ることもなく映像化したもの、という感じが強いのだ。
ひょっとすると、そのままゴミ箱にそっと戻してあげるのがいいのかも知れない。しばらく経ってから誰かが拾って「ふむ、このアイディアはふくらませると面白いかも」と、もっといいものを作ってくれそうな気がする。
■■『同じもの』
監督:マーク・パランスキー
出演:ジョシュ・ハートネットほか
ジョシュは主演じゃありませんから。出演は7カットくらいかな。あくまでも犯罪に走る小人症の男性が主役。
色合いも構図も凝った映像、セリフなしで進む物語。そういう意味では立派に“映画している”のだが、結局はビデオクリップ風キ印ストーリー。
どうやらアメリカで発売されている版には収録されていない模様で、つまりはデリケートな題材でもあるわけだが、そんなことはどうでもいいくらいに面白くないお話。13点。
■■『ユーストン・ロード』
監督:トア・スタッパード
出演:ポール・ベタニー/チャーリー・コンドウ
ある意味でワンアイディアものなのだが、謎を提示する側と解く側とのルールをもっと煮詰めたり、解く側の背景を冒頭で描いたりして上手に作れば1時間半くらいの映画にできたんじゃないか。推測がそのまんま映像になるっていう部分は面白いんだから、その手で長編にしてもよかったのに。
でも「途中でバレちゃうんじゃない?」という心配があって10分ほどに短縮。で、かえってつまらないものになってしまった。つまらないっていうか「それだけかよっ!」みたいな。14点。
■■『立ち見席のみ』
監督:デボラ=リー・ファーネス
出演:マイケル・ガンボン/ウイリアム・アッシュ/ヒュー・ジャックマン/ソフィア・ダール/メアリー・エリザベス・マストラントニオ/アンディ・サーキス
色調をコントロールした映像はキッチュな感じがして楽しいし、登場人物それぞれの表情もいいし、なによりセリフなしで“わからせる”演出が上質だ。ヒュー・ジャックマンの彼女が列に並ぶタイミングとか犬の使いかたとか心憎い限り。
途中で「あ、そういうことかな……」とバレるんだけれど、だからこそコンパクトな短編としてまとめた良さが浮かび上がる。
監督はヒュー・ジャックマンの夫人だとか。才能は才能を呼ぶのだな。あとゴラムさんことアンディ・サーキスの面目躍如ともいえる作品。17点。
■■『スーパーマーケット』
監督:イレーナ・ダグラス
出演:イレーナ・ダグラス/ダリル・ハンナ/ジェフ・ゴールドブラム
これもアメリカ版には収録されていないのかな。「スーパーで働くことになった女優と、そこにたまたまやってきた男優」という見た目通りの話ではなくて「女優という生き物・男優という生き物」を、女優であるイレーナ・ダグラスの解釈によってストーリー化・映像化したもののように思えた。
観る人によってはすんげーつまらないお話なんだけれど、イレーナのキャラクター、仏頂面のダリル・ハンナ、ジェフ・ゴールドブラムのいい加減さが可愛らしくって、そんなに嫌いじゃない。15点。
■■『大みそか』
監督:コリン・スペクター
出演:ステファン・マンガン/アミット・ラハフ/フィリップ・ハーバート/キーラ・ナイトレイ/ナオミ・アリストーン
とりあえずキーラを俺にくれ、といいたい。15歳でもいいから。ていうか15歳なら、なおさらくれ。それだけの作品。見事なまでにキーラ・ナイトレイ以外の出演者に華がないんだもんな。12点。
■■『ソーセージ』
監督:アンドリュー・アプトン
出演:ケイト・ブランシェット/リネット・カーラン
実相寺かヴィンチェンゾ・ナタリかっていうくらいのアーティスティックな絵の連続。ナイキを履いているケイト・ブランシェットってのもイメージになくてドキっとする。でも、それだけの作品。13点。
■■『新しい一日』
監督:ウィリアム・ガルシア
出演:ジェームズ・ガンドルフィーニ/キャスリン・ナードゥッチ/ネッド・エイゼンバーグ/デリラ・コット
お話としてはバレバレ。でも、すべての謎が解けた後にビールをあおるビンセントの清々しい表情がたまらない。汗臭そうだけれど可愛いぞ、このオヤジ。生活感たっぷりのアパートもいい。16点。
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