エネミー・オブ・アメリカ
監督:トニー・スコット
出演:ウィル・スミス/ジーン・ハックマン/ジョン・ヴォイト/レジーナ・キング/リサ・ボネ/イアン・ハート/バリー・ペッパー/ジャック・ブラック/トム・サイズモア/ガブリエル・バーン
30点満点中17点=監4/話3/出4/芸3/技3
【監視される社会に対し、ふたりの反撃が始まる】
家を荒らされ、クレジットカードを止められ、信頼を失うような記事を新聞に掲載される弁護士ロバート・ディーン。仕事で脅迫したマフィアの仕業だと考えた彼は、情報屋ブリルとの接触を図る。だが、事件の裏にいたのは米国家安全保障局(NSA)のレイノルズ。レイノルズは盗聴法案に反対する議員を暗殺したのだが、その様子を収めたビデオテープを、ディーンは知らぬ間に手に入れていたのだ。ディーンとブリルの反撃が始まる。
(1998年 アメリカ)
【スピード感の創出が見事】
プライバシーの侵犯と保護には、いろいろな考えかたがある。プライバシーを絶対視する向きもあるだろうし、「プライバシーなど頭の中にあれば十分」という態度もありうる。各種の価値観が混沌としているわけだが、プライバシーの侵犯に加え、そうした価値観まで侵犯の危機にあるように思える。
本作は、そんな現状に対する警鐘として作られた映画。が、下手に説教臭くなりすぎないよう、テンポのいいエンターテインメントとしてまとめられている。
これを観ると、映画におけるスピード感の創出は、単にお話をグングン進めればいいというわけではなく、やたらとカットを増やせばいいというものでもなく、ウィットに富んだセリフ&撮るべきものを適確に撮るカットを丁寧に積み上げることで可能となる、ということがよくわかる。
小気味いいんだよね。『ドミノ』ほど無茶なことをやると神経質になってしまうけれど、トニー・スコットならではの“スタイリッシュな映像”がほどほどのレベルでコントロールされていて、かなり観やすい。本作と、この次の『スパイ・ゲーム』あたりが、いちばん脂の乗った頃合かも知れない。
出演者では、ジーン・ハックマンが出色。ここんところ悪役かイジラれキャラかふんぞりかえってるか、という印象が強くて持ち味全開とはいかなかったけれど、本作では実にカッコイイ。かすかな目の動きで感情を表現したりして。マフィアのピンテッロを演じたトム・サイズモアもハマり役で、このオッサンふたりが、弁護士に見えないウィル・スミスをカバーしていた。
お話には、多少強引(といっても、本作に登場する盗聴技術や個人情報の操作なんて、米当局がその気になれば簡単にやってしまえるんだろう)なところも説明的なところもあるけれど、序盤から撒き続けた伏線をラストで上手にまとめてみせて、きれいに収束する。
キーワードの埋め込みかたも冴えている。
1つは、ブリルがディーンに対して口にする「利口なのか、バカなのか」というセリフ。冒頭で述べたプライバシー侵害に対する姿勢について、あなたは利口な態度を取りますか、それともバカな愚民のまま生きますか、という問題提起となっている言葉に聞こえる。また、とりあえず行動に移すことこそ、自分が利口なのかバカなのかを決める手段、という意味合いも含まれていそうだ。
もう1つが、犬と猫の登場。もし、うちで飼っている犬や猫が、わが家の秘密についてあちこちでおしゃべりしたら……。自宅の中に他人の目と耳が入り込むことについて考えさせるパーツとして、この犬と猫は機能する。
こうしたテーマに対する自分的回答は「ともかくも、頭と金と力がなきゃ話になんないな」ってこと。法案をつぶすにも、可決された後に盗聴を防止するためにも、知恵と資金と行動力・影響力は絶対に必要となる。ディーンとブリルだって、頭と金と力をフル回転させて事態の解決にあたっているわけだし。
ま、いまんとこ知恵もなければ金もないし、体力も不足気味。なけなしの貯金をはたいて南の島にでも逃げるしかないのかなぁ。
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