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2007/04/21

ボンボン

監督:カルロス・ソリン
出演:フアン・ビジェガス/ワルテル・ドナード/グレゴリオ/ロサ・ヴァルセッキ/マリエラ・ディアス/キタ・カ/パスクアル・コンディート/クラウディーナ・ファッツィーニ/カルロス・ロッシ/サビーノ・モラレス/ロロ・アンドラーダ/ミコル・エステヴェス

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3

【ツイテないおじさんが、犬と出会って】
 勤務先のガソリンスタンドが閉鎖されて、職を失った整備工のフアン・ビジェガス。手作りのナイフもさっぱり売れず、居候先の娘もガミガミとうるさい。そんなフアンがある女性のクルマを修理してあげたところ、お礼としてもらったのは血統書つきの強面の犬、犬種はドゴ・アルヘンティーノ。さらにドゴ・マニアの人たちと知り合ったフアンはトレーナーのワルテル・ドナードを紹介され、ふたりと一匹はドッグショー出場を目指すことになる。
(2004年 アルゼンチン)

★ちょっとネタバレを含みます★

【彼らのナマが、ここにある】
 こんなにも哀しい笑顔を浮かべる人がいるんだ、というのが主演フアン・ビジェガスから得た最初の衝撃。で、パンフレットを見て二度ビックリ。なんとまったくの素人らしい。駐車場で働いているんだとか。
 この人だけじゃなく、パートナーのワルテルも本職はアニマル・コーディネーター、ほかにも監督の仕事仲間とか教師とか、出演者はアマチュアばかりがズラリ。プロは子役のミコル・エステヴェスちゃんだけ。

 つまりは、そういうこと。アルゼンチンの“ナマ”を見せようとした作品なのだろう。不況と失業、草も生えないような荒野で、笑顔の下に哀しみを宿しながらも何かに一所懸命になる、善良な小市民たち。その姿をありのまま映し出し、けれど苦しさだけに目を向けるのではなく、「おいらたち、こうして生きている」と希望の火を灯すような映画。

 かといって役者たちが“素人臭い”わけではない。ちゃんと演技をしている。それが実にナチュラルというか、その人にしか出せない味わいを汗臭い皮膚から発散させている。監督は、この物語の登場人物と境遇の近い者を起用することで“役と人物との魂の重なり”を意図したらしいが、その狙い通りの効果が生まれているようだ。

 加えて、そういう“ナマ”をただ撮っているだけでもない。カメラは人物に寄れるだけ寄り、微妙な筋肉の動きや視線の揺らぎを拾い上げる(クルマの助手席に初めてボンボンを乗せたとき、反対側にちょっとだけ重心を偏らせているフアンの姿がラブリーだ)。まさに“魂”の部分をフィルムに刻もうとする撮りかた。
 また(おそらく)オール・ロケで作られた絵も自然だし、監督の息子の手になる音楽も画面と絶妙なマッチングを示す。次のシーンへ移行するタイミングも抜群だ。
 祭壇に差す明かりで時間経過を示したり、時計を見るだけで「職探しもしないで、こういうことしていて、いいのかな?」というフアンの戸惑いを観客に想像させたり、と、かなり映画的。パンフレットによれば「いつも言語的な表現よりも身振りを好んで用いてきた」というソリン監督、その言葉にウソはないと感じた。

 たぶん、ホントはキレイごとだけじゃないんだろう。最近では経済状況も良化しつつあるそうだが、一時は失業率24パーセントにも達したというアルゼンチン。無気力な娘婿、オンボロのクルマ、生まれた町から一歩も出ない閉じた人生なんてのは、どこにでも転がっているはずだ。「頭には入っていても口から言葉が出てこない」という少女は、どうしようもないところから抜け出せずに生きる彼の国の人々の隠喩かも知れない。

 でも、そこにだって喜びのタネはある。カネがないから直接助けることはできないけれど、「いいナイフだ」とひと声かける温かさを持つ人がいる。どうせなら楽しもう、楽しまなきゃ損という意識がある。協力して儲けたお金を分け合う知恵もある。経済的な成功よりも「やり遂げた」という思いを喜びに思う価値観がある。それこそが、人間の“ナマ”。

 そして、その1カットを見せたいがための90分だったのだなと感じさせるラスト。普通なら目を背けてしまったり、苦笑するしかない光景なのに、体の中からジワリと優しさが込み上げてくるようなエンディング。
 意味合いによって同じ場面でも見えかたは変わるのだよと、作り手は知らせたかったのだろう。それ=見えかたの違いこそ、まさしく「生きている」ってこと。誰もが自分の価値観を磨きながら、「生きている」ことをまっとうすればいいじゃないか。そんな作品テーマにふさわしい、生命を象徴するラストシーンに、微笑を禁じ得ない。

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