ヒストリー・オブ・バイオレンス
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン/マリア・ベロ/ウィリアム・ハート/アシュトン・ホームズ/ハイディ・ヘイズ/ピーター・マクニール/グレッグ・ブリック/スティーヴン・マクハティ/エド・ハリス
30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技4
【血塗られた過去が、悪夢を呼ぶ】
インディアナの田舎町でダイナーを営むトム・ストールは、美しい妻のエディ、気弱な息子ジャック、幼い娘サラとともに睦まじくささやかに暮らしていた。だがある日、店に押し入った2人組の強盗を咄嗟に撃ち殺したことでトムは英雄に祭り上げられる。にぎやかになったトムのもとに訪れたのは顔に傷を持つマフィアらしき男、フォガティ。彼はトムを「ジョーイ」と呼んで付きまとう。果たしてトムの過去に、何が隠されているのか?
(2005年 アメリカ/カナダ)
【テーマを詰め切れなかった印象が強い】
暴力的な映画や暴力がストーリーの中核をなす映画は多いけれど、本作のように「暴力そのものが果たす役割」だけに的を絞った作品は意外と少ないのではないだろうか。
暴力を上回る暴力、マスコミという名の暴力、1つの暴力が引き起こす次の暴力、まるで暴力の代替であるかのようにおこなわれるセックス……。とにかく徹底して、ある人物がこの世に生まれ落ちた瞬間から続く暴力の連鎖を描くことに時間が費やされる。
冷たさに満ちた長回しのオープニングから、暗澹たる未来を予感させるエンディングまで、静かな割になかなか面白さのある物語だ。
ただ、あくまでもストール家の中だけで話をまとめてしまったせいか、「画面のあちら側の出来事」という雰囲気が強くなり、こちら側に迫るものが少なくなってしまった。確かにトムの周囲には暴力が数珠つなぎになって押し寄せるが、それが観る者の周囲とはシンクロしないのだ。
たとえば暴力に潜む快感を拾い上げてその背徳と罪悪感を観客に意識させるとか、ジャックが遭遇するような日常にはびこる暴力をより多くストーリーに織り込むことができたなら、もっと奥の深い映画になったはずだ。上映時間は96分。このテーマを語り切るには、少し短い。
ストール家を「普通の家庭」という記号だと考えれば各登場人物の背景をほとんど省略しちゃったのは納得できるが、ちょっとリアリティに欠けるのは問題。妻も息子もトムのこと知らなさすぎ。胸に風穴開けられたのにトムったら頑丈すぎ。トムの兄貴はボーっとしすぎ。
また、描きかたはかなり地味。グロいともいえる死体などショッキングなカットはありし、あるいは暴力と温かな家庭を対比させるなど手堅さも感じるけれど、状況を普通に撮っていて全体としてはTVムービー的だ。
幸いにもヴィゴ・モーテンセン、マリア・ベロ、エド・ハリスの重い演技が画面を引き締めてくれるから退屈はしないが、映画としての魅力にはやや乏しい。
いいテーマをいい切り口で取り上げてはいるが、ちょっと詰めが甘くなってしまった作品に思える。
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