エミリー・ローズ
監督:スコット・デリクソン
出演:ローラ・リニー/トム・ウィルキンソン/ジェニファー・カーペンター/キャンベル・スコット/コルム・フィオール/アンドリュー・ホイーラー/ジョシュア・クローズ/ダンカン・フレイザー/JR・ボーン/ショーレ・アグダシュルー/メアリー・ベス・ハート
30点満点中17点=監3/話3/出4/芸3/技4
【法廷で“神の子”は悪魔に勝てるのか?】
悪魔祓いの結果、大学生エミリー・ローズを死なせてしまったことで起訴されたムーア神父。検事は敬虔な信徒であり、やり手として知られるイーサン・トマス、神父の弁護には出世欲の塊であるエリン・ブルナーが立つことになる。やがてエリンの周囲にも不思議な出来事が……。過失致死の罪を立証すべく、効果的な証拠を提出し、信頼すべき証人を喚問する検察に対し、弁護側は「エミリーに、なぜ、何が起こったのか」を積み上げていく。
(2005年 アメリカ)
【ホラーではなく法廷モノとしての秀作】
あの「怖いから放送するな」との苦情が多数寄せられたというCMのせいでホラーと認識している人が多いのだろうが、実際にはそれほど恐怖を与える描写・展開はなく、オカルトではあるけれどホラーではないという微妙な立ち位置。むしろ法廷モノにカテゴライズすべき内容だ。
そして、法廷モノとしては米FOXの『ザ・プラクティス』という化け物のように面白いTVシリーズがあるんだけれど、それに熱中した身にも面白い仕上がりとなっている。
不満はある。エリン・ブルナーが採る法廷戦術は甘く、陪審員に対してさして効果的とは思えず「これじゃあ勝てねーな」と感じてしまう。また出世欲しかない彼女がこの事件に“何か”を感じる過程も、深夜3時の不可解な出来事やペンダントのエピソードだけでは舌足らずだろう。検察側のヤリ口だって、もっとイヤラシイものにしてよかったかも知れない。
が、その不足分を補うかのように、法廷と回想とをフラッシュバックさせて雄弁に「エミリーに、なぜ、何が起こったのか」を見せてくれる。
法廷、学生寮、病院、凍てついた地に建つローズ家、拘置所といった“その場”に応じてふさわしい明暗やノイズや色合いなどが雰囲気たっぷりに配され、重心の低い音楽で物語の重苦しさを増大させ、また1カットのタイミングが「ここで見せたいものを、必要なだけ観客に意識させる」ように計算されていて、われわれを事件の目撃者&裁判の傍聴者に仕立て上げるように作ってある。
だから、映画の中に“入っていく”ことができるのだ。
キャスティングと演技も、なかなかいい。
渾身の“憑かれっぷり”を披露したエミリー・ローズ役ジェニファー・カーペンターはもちろんのこと、その衝撃性とコントラストをなすよう抑えた芝居で挑んだエリン・ブルナー役のローラ・リニーもムーア神父役のトム・ウィルキンソンも、これまで見た映画とはまったく異なる表情で、この役をまっとうしようという気概に満ちていた。ショーレ・アグダシュルーのドクター・アダニも胡散臭い学者にしか見えない怪演だ。
そして、これ以上ない評決。それをサラリとすませる心憎い演出。こういうのを見せられると、面白いドラマを提供するネタ=陪審制を日本が失った無念さを感じてしまう(早く参審制がスタートして、その制度を生かしたストーリーが作られないものかと待ち遠しい)。
怖いのかなと思ったけど、たいして怖くないじゃん。でも、けっこー面白かったよね。そういう感想を抱く、拾い物の1本だ。
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