妹の恋人
監督:ジェレマイア・チェチック
出演:ジョニー・デップ/メアリー・スチュアート・マスターソン/エイダン・クイン/ジュリアン・ムーア/CCH・パウンダー/オリヴァー・プラット/ダン・ヘダヤ/ウィリアム・H・メイシー
30点満点中17点=監4/話2/出4/芸4/技3
【妹を想う兄、彼女を想う男】
賭けポーカーのせいで、文字もロクに書けない風変わりな男サムを押しつけられ、家に住まわせることになった自動車修理工のベニー。彼は分析医の忠告に逆らい、精神に問題を抱える妹ジューンの面倒も見ていた。ちょっとしたことですぐに家政婦を追い出してしまうジューンだったが、なぜかサムとは気があった様子。ベニーもウエイトレスのルーシーといい仲に。だが相変わらずジューンは彼を悩ませ続け、そして彼らに転機が訪れる。
(1993年 アメリカ)
【完成度は低いが、見るべき点も多くて、あたたか】
人の能力や想いは“誰か”のために存在すると考えよう。誰かのために、何かをする自分。その役割をまっとうしようとするがあまり、ときには横暴になってしまうこともあるだろうが、他者に対して「できる限りのことをしたい」と思うのは、そう悪いことじゃないはずだ。そこに尊い結びつきも生まれるわけだし。
でも、その“誰か”に別の“誰か”が現れたとしたら?
本来ならそんな哀しい瞬間ともなる出会いと交流を描いた作品だが、そこを強引に「はい、こういう風に収まりました」へ持っていった映画。ちょっと奥行きに欠けるし、最初にベニーがジューンをサムへと託す動機も曖昧、お話のふくらましも少ないのだが、憎めない雰囲気がある。
まず「日常」の織り込みかたが上手い。接客、じゃれついてくる犬、新聞配達、家じゅうに施されたペインティング、黄昏の公園……。なにげない場面がなにげなく、でも印象深く描かれて、ベニーとジューンの周囲を色鮮やかなものにしていく。あのポーカーゲームなんか、映画史上に残る「ストーリーを面白くするためのアイテム」ではないだろうか。
シーンのつなぎかたも大きな見どころ。どんなカットで始め、どんなカットで次のシーンへと移るのか、その選択のセンスがなかなか良くて、語り口に絶妙のテンポを生んでいる。各場面に乗っかる音楽もスマートだ。
そうした作りの確かさがあたたかさにつながって「よかったね」「きっと“誰か”と一緒に生きるってのは、こういう幸運に助けられるってことなんだね」と、肯定的に観ることができる。
大きな作品ではないし、物語としての完成度は低いかも知れないけれど、そういうところに目をつぶって優しい気持ちになることのできる映画だ。
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