デイジー
監督:アンドリュー・ラウ
出演:チョン・ジヒョン/チョン・ウソン/イ・ソンジェ/チョン・ホジン/デヴィッド・チャン
30点満点中18点=監4/話4/出4/芸3/技3
【不幸な出会い、幸福な時間、残酷な最期】
アムステルダムで骨董屋を営む祖父と暮らすヘヨン。彼女に時おり届けられる鉢植えのデイジー、それはたぶん彼女のために小川に橋をかけてくれた“初恋の人”からのもの。ヘヨンは広場で似顔絵を描きながら、まだ見ぬ初恋の人に想いを巡らせる日々を過ごしていた。ある日、彼女に似顔絵を頼んだジョンウを「その人」だとヘヨンは確信する。だがそれはヘヨンとジョンウ、ヘヨンを陰から見守るパクウィ、3人にとっての不幸な出会いだった。
(2006年 韓国)
【足し算で作られた作品】
面白いもので『猟奇的な彼女』や『僕の彼女を紹介します』のクァク・ジェヨンがシナリオを書き、『インファナル・アフェア』シリーズのアンドリュー・ラウが撮ると、きっちりと、双方の持ち味が足し算された映画ができあがる。
いずれも「あっ、そういうこと!」という展開を得意とする人なので、もう全編に渡ってその連続。なにげないカット、シュガーポットからぶちまけられる砂糖や韓国ドラマのビデオといった小道具が、後になってユニークな姿で再登場を果たす。
ヘヨン、ジョンウ、パクウィと視点・一人称の主体がコロコロと変わり、しかも突拍子もない話であるのだが、その割に感情移入を誘うのは、この倒叙的な構成が「理由と結果が意外な時と場所で密接に絡まりあう人生というもの」を感じさせるがゆえだろう。
ナレーションの多さも、ヘヨンのセリフが少なくなる後半へつなぐためだと考えれば納得できるし、なかなか練られたシナリオだ。
その凝った構成だけでなく「観せて感じさせる」映画的な撮りかたも練られている。
相変わらず妙なところでストップモーションやスローが挿入されて面食らうが、ソフトフォーカスで捉えられるヘヨンのノーブルさ、背景をボカして人物を浮かび上がらせる広場での撮影、タッチが変えられるパクウィの“仕事”シーン、大切な人と同時に色をも失ったジョンウの部屋、パートカラーや空と緑の美しさ……など、バリエーションに富んだ画面。
あるいは、昨日より今日、今日より明日と、少しずつヘヨンとの距離を縮めていくパクウィ、見つめあうヘヨンとジョンウの間に漂う絶妙な間(ま)なども交えて、物語に静けさと躍動感がもたらされていて、観るものに想像力を働かせる心配りもある。
そして、相変わらずチョン・ジヒョンは美しい。輝くばかりの瑞々しさをたたえる前半、打って変わって憔悴を撒き散らす後半、その対比も素晴らしくて、例のごとく「頼むからオレにくれ!」といいたくなる。
チョン・ウソンは正直あまりカッコよく感じられないし(角度によっては次長課長の河本に見えて仕方なかった)、イ・ソンジェは「なんでジヒョンちゃんがコイツに惚れるかな」的なルックスなのだけれど、ヘヨン、ジョンウ、パクウィが邂逅するドア越しの場面は、周囲が見えなくなる女と何もできない男ふたりの切なさが張り詰めて、極上のシーンとなった。
強引に「収めるところへ収めた」という感のあるエンディングであり、たとえば鑑賞後に誰かと「3人はどうすればよかったのか」と語り合うような内容でもないと思う。それはつまり「これは、こういう物語なのです」と叩きつけてくる作品であるということ。
足し算の“和”がそうであるように、キッパリした映画である。
追記。半年ぶりに『アナザー・バージョン』を鑑賞。もっと劇的にオリジナルを改変していると思っていたけれど、編集に手を加えて「ちょっとだけパクウィ寄り」にしただけだった。
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