赤ちゃんの逆襲
監督:パトリック・アレサンドラン
出演:ティエリー・レルミット/オフェリエ・ウィンテル/ミシェル・ミューラー/レオノール・ワトリング/フランソワ・レヴァンタル/マリア・パコム/リセ・ラメトリエ/クレマンティーヌ・セラリエ/マティアス・ヴァン・カーシェ/ホルヘ・ガーゴ
30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4
【生まれ変わった不幸な男の逆襲が、いま始まる!】
大手建設会社を経営するポレル社長のもとへと乗り込んだ、ツキのない建築家志望の男シモン。彼が考案した美術館のデザインを、ポレル社がこっそり横取りしていたことがわかったのだ。ところが軽くあしらわれ、おまけにポレルのクルマに轢かれてシモンはあの世行き。生まれ変わったのはよかったけれど、なんとポレル家の赤ん坊に! さあシモンの逆襲が始まる。そこにシモンの恋人カルメン、彼女の浮気相手フレディの思惑も絡んで……。
(2003年年 フランス/スペイン)
【バカじゃないコメディ、思わぬ拾い物の1本】
てっきりバカでドタバタのご家族向け、あるいはフレンチの小品らしいオフビート&シュール&お洒落だけが取り得のコメディかと思っていたら、これがまぁ、エロティックだわブラックだわ下品だわグロテスクだわ、とても子どもに見せられたもんじゃない(あ、R15なのね)し、シュールでもお洒落でもない。
そして、すっげー面白い。
とにかくテンポが軽快。必要のないことは盛り込まず、ポンポンと心地よいリズムでカット/シーンを切り替え、「語る」のではなく「見せてわからせる」工夫を施し、ちょっとしたセリフや出来事で誰がどんなキャラクターかを描き、もちろんあっちにこっちに笑いを散りばめて……と、広がりはないものの密度感たっぷり、よどみなく進んでいく。
その適確な演出プランと楽しいストーリーを支えるべく、カメラは近くから遠くから上から下から、縦横無尽に動いてスマートでスピーディな画面を作り出す。いかにもセレブなポレル家&ポレル社と貧乏画学生シモンのアパートの対比が楽しい美術、多彩な楽曲で画面を彩る音楽、ドキリとさせるヴィジュアル・エフェクトの仕事も上質だ。
ああ『We Will Rock You』にこんな使いかたがあったとは、なんてラブリーなんだろう。
出演陣も手堅くて、甲斐甲斐しくも悲惨な目に遭うパパ=ポレルを演じたティエリー・レルミットと、ジュニア=ホルヘ・ガーゴ君の絡みが、すこぶる愛らしい。レオノール・ワトリングも、こういうちょっとハスっぱな女の子役のほうが可愛いじゃん。
約90分とコンパクトなせいもあるが、まったく飽きさせない作り。なによりも、エロティックでブラックで下品でグロテスクではあるんだけれどバカではなく、コメディにありがちな物語の破綻やIQの低い展開に陥っていないのがいい。
ひたすらグイグイと、笑わせながら引っ張っていきつつも、「親は子どもをどんなふうに見ているのか」「子どもが親に抱く感情」「親と子それぞれの身勝手さ」といった皮肉も込められている。
いや、あくまで「笑ってください」の作品なんだけれど、意外なほどに完成度は高く、観初めて5分で「こりゃあ面白ぇーぞ」と居住まいを正してしまう、思わぬ拾い物の1本だ。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント