タイフーン
監督:クァク・キョンテク
出演:チャン・ドンゴン/イ・ジョンジェ/イ・ミヨン/デビッド・マクイニス/チャタポン・パンタナウンクル
30点満点中17点=監4/話2/出4/芸3/技4
【南に見捨てられた北の男、その復讐劇】
韓国に見放されたせいで両親を殺され、姉とも生き別れとなった過去を持つ男、シンこと脱北者チェ・ミョンシン。タイで海賊のボスにおさまった彼は、輸送中の船から米軍の兵器を奪い、ロシアとも接触して核廃棄物を手に入れる。北にも南にも恨みを持つシンが半島すべてに対する復讐を開始したのだ。その計画を阻止すべく抜擢されたカン・セジョン大尉は、シンの姉ミョンジュを発見して身柄を確保、シンに対して取り引きを持ちかける。
(2005年 韓国)
【もう少し突き抜けたところが欲しかった】
切れの良さが特徴。たとえばオープニング、台湾沖で輸送船を襲うシン一味の非道ぶりを、たいしたセリフなしに描き切る。クライマックスでも、ちゃんと台風&米軍の介入という味つけをほどこして、主役ふたりの対決をスリリングなものにしている。
状況がやや複雑なのでセリフによる説明に頼っている部分もあるのだが、全体としてはアクション映画になくてはならないスピード感を維持しているといえるだろう。
カン・セジョンたちが見せる「鍛えられた軍人としてのカッコよさ」や、シン一味にソムチャイ(こいつ、なにげにカッコイイ)&トトというスパイス的人物を配したことも“厚み”となって効いている。
このスピード感を支えるのが撮影だ。色のトーンが不統一であることは気にかかるが、姉と弟が置かれた環境の寒さ・ひもじさなど“その場”の空気感をよく捉えているし、立体的に動いて画面に奥行きも与えている。CGがちょっとちゃっちいが、それを補って余りある絵が続く。
重心の低い音響も及第点以上だろう。
が、どうもこの監督(脚本もクァク・キョンテク)、大切なところでちょっと手を抜くクセ(?)があるように思える。
本来この作品は、韓国映画ではおなじみの「引き裂かれた血」がテーマとなっている。それを堅苦しいものにならないよう、あるいは韓国以外の人にもわかりやすいよう、シンとミョンジュの姉弟関係、さらには「友達になれたかも知れないシンとセジョン」というパーソナルなところに落とし込み、感情移入しやすい配慮を示したことは評価できる。
ところが“事件”の風呂敷を広げすぎたばっかりにそちらにパワーを取られてしまって(といっても都合よく情報が集まりすぎたりして展開の強引さを感じるんだけれど)、“人”を描くのにパワーを割けなかった印象。その結果、シンのキャラクターが「悪いように見えて、ホントは悲しいヤツ」という安直なところに落ち着いてしまい、セジョンの葛藤も不十分となってしまった。
アクション映画にそこまでの深みを求めるべきではないのかも知れないが、トータルのデキがいいだけに惜しいところだ。『友へ チング』でもそうだったが、この監督、人と人との“つながり”をカタチにするのが苦手なのかも知れない。
余計なことをせず、シンを狂気の男として「あくまでも事件を描くアクション」に徹すれば、もっと面白いものになったろう。
と、そういう深みとコクの部分、バランス感覚の点では不満は残るが、エンターテインメントとしていい仕上がりになっているし、なにより18億円ほどの制作費でここまでのモノを作ってしまったことは快挙。
チャン・ドンゴンも『友へ チング』や『ブラザーフッド』とは違った男っぽさを見せてくれるし、イ・ジョンジェも『イルマーレ』とは同じ人物と思えないほど銃を持つ姿が様になっている。
まずまずには楽しめるラインの映画、といったところだろうか。
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