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2007/06/15

オリバー・ツイスト

監督:ロマン・ポランスキー
出演:バーニー・クラーク/ベン・キングズレー/ハリー・イーデン/ジェイミー・フォアマン/リアン・ロウ/エドワード・ハードウィック/ジェレミー・スウィフト/マイケル・ハース

30点満点中16点=監3/話2/出4/芸4/技3

【貧しさが支配する町ロンドンで、少年は涙を流す】
 19世紀のイギリス。救貧院育ちの孤児オリバー・ツイストは棺桶屋に買われたものの先輩職人らのひどい仕打ちにあって脱走、単身徒歩でロンドンへと向かう。そこで出会ったのは盗品売買を生業にする老人フェイギンと、ドジャーたち少年スリ団。彼らの手ほどきを受けてスリの技を身につけたオリバーだったが、初仕事でしくじって警察に捕まる。幸いにも金持ちのブラウンロー氏に拾われたが、フェイギンたちはある狙いを立てていた。
(2005年 イギリス/チェコ/フランス/イタリア)

【暗くて救いのない、楽しくない映画】
 美少年バーニー・クラーク君が演じるところのオリバーは、まぁイマドキ珍しい(舞台は19世紀なんだけれど)というか、およそ主役とは思えないというか、とにかく役立たず。なぁんもできません。泣いているだけ。価値観とか主義主張とかもなし。受動的。
 普通、この手の話だと何かひとつ持っている取り柄とか特技とかで窮地を乗り切ったりするもんだけれどね。まぁ世間知らずの9歳でロクな教育を受けていないんだから、このほうがリアルではある。

 そんな彼の唯一の武器が“善良”であること。いや、一時はスリに手を染めようとしたんだから善良ではないな。せいぜい“素直”か。
 ただ、善良なだけでも素直なだけでも食っていくことはできない。誰も彼を救ってはくれない。それが人間社会。
 金持ちの義務感からか、あるいはこの人もまた世間知らずなのか、ブラウンロー氏はオリバーに手を差し伸べる。オリバーに自分の境遇を映したナンシーも親切心を見せる。でも結局のところオリバーが歩いた後には、やるせなさや悲劇が積み上げられていく。
 恩を売ることの裏には恩を返してもらうことへの期待がある、貧しい食事とボロボロの服の対照として豪華なディナーとピカピカの服がある、誰もが貧しい世の中ではスケープゴートとしての犠牲者が必要となる……。そんなドロドロとした人間社会のありようが描かれていく

 これってオリバーが主役の物語じゃなかったんだ。一応はオリバーをストーリーの中心に据えながらも、彼を取り巻く人々の想い、いわば人間社会の理不尽さを説いているのだな。
 どうもポランスキーって、相当なペシミストのようだ。

 で、そんなこんなを踏み越えてオリバーがたどり着いたところって、決して幸福ではない。なにしろ彼は、世の中にはどうしようもできないことがあると学んだわけだ。分かれ道で右へ往けば幸福が待っているけれど、左にあるのは不幸ではなく絞首刑であることも知ったわけだ。
 そんな社会で単純に「とりあえず裕福になれればOK」と開き直れるほどオリバーは強くないだろう。

 そういう救いのない話を語るために、無駄なくらいの力をかけてロンドンの町並みやそこに暮らす人たちのファッションが再現される。ひょっとすると、金と手間をかけて鮮やかな町を作り出した“見事な仕事”と、そこで描かれる救いのないストーリーとのギャップから、この物語の本質を読み取ってもらいたいがための仕様なのかも知れない。
 BGMも同様だ。シーンに合わせて、間の抜けた、はたまたスリリングな音楽が仕立てられていて、ある意味で軽快。その軽快さとお話の暗さとのギャップが、いっそうクッキリと人間社会の理不尽さを浮かび上がらせる。
 『戦場のピアニスト』では力の入った美術と音楽がそのまんま作品にリアリズムをもたらしていたけれど、今回はちょっとヒネって「ガチっと作りました。その裏に潜んでいる『ガチっとしていない人間の悲しさ』を感じ取ってください」といったところか。

 とまぁ、なんだかんだと並べてみたが、オリバーを取り巻く人々の想いをコッテリ描くにしては性急すぎ、ダイジェストっぽいと批判されても仕方のない奥行きのない仕上がり。
 楽しくない映画である。

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