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2007/06/28

マダガスカル

監督:エリック・ダーネル/トム・マクグラス
声の出演:ベン・スティラー/クリス・ロック/デヴィッド・シュワイマー/ジェイダ・ピンケット・スミス/サシャ・バロン・コーエン/セドリック・ジ・エンターテイナー/アンディ・リクター/トム・マクグラス

30点満点中18点=監4/話3/出3/芸4/技4

【夢にまで見た野生の王国、そこに待っていたのは……】
 ここはNYの動物園。10歳になったシマウマのマーティは野生の生活に憧れを抱いていた。「ここが一番だ」と彼を慰めるのは人気ナンバー1のライオン・アレックス、しっかり者のカバ・グロリア、病弱なキリン・メルマン。ところがマーティは大自然を目指すべく、動物園をこっそり抜け出してしまう。アレックスたちは連れ戻そうと追いかけるが、大騒動に発展、結局マーティの望み叶ってケニアに送られることになったのだが……。
(2005年 アメリカ アニメ)

★ネタバレを含みます★

【意外にも突きつけ系】
 サバンナを駆け回っているはずの動物たちを狭い檻の中に閉じ込めて衆人の目に晒す。動物園は確かに不自然な場だが、多くの子どもらに動物(の生態)に対する興味を持ってもらうことによって、たとえば獣医や自然保護活動家がひとりでも増えれば、その存在意義はあるといえる。
 というのは、身勝手なエクスキューズ。動物の生き死にを人間がどうこうしようという思考じたい不遜なものであるわけだが、本作のように、檻の中の動物たちがすすんで人間を楽しませようとしてくれているのなら、少しは僕らも彼らも救われるだろう。

 エコロジーとかロハスといった言葉は、どうやら口にする人の思惟によって都合よく意味を曲げられて使われているようだが、環境を慮る姿勢の陰には結局のところ「人間が少しでもこの星の支配者であり続けるために」という意識があるように思える。

 本来、人間が消えてなくなりさえすれば、環境保護もへったくれもなく、地球はすくすくと育っていくんである。でもそれは無理なので(人間だって生存本能を備えたひとつの“種”だから)、免罪符か魔法の呪文のごとく動物園の意義を唱えたりスローライフと叫んだりするのである。

 とまぁ小難しいことを考えなくても楽しめるように、ファミリー向けCGアニメとして上質の仕上がりを見せる。
 波のうねり、煙った都会、緑あふれるマダガスカル、その背景の上で躍動するユーモラスな動物たち。ペンギンズの所作なんて、可愛くって仕方ありませんよ。
 音楽も、どちらかといえば懐かしめの曲をふんだんに盛り込んで、さらには『キャスト・アウェイ』(ロバート・ゼメキス監督)とか某SF大作など新旧の名画のパロディも散らしてニヤリとさせてみたり。友情を軸として一気呵成に進んでいくストーリーも、親しみやすい。
 作画・音楽・ストーリー、それぞれが“楽しさ”を創り上げていく。

 ところが、である。この“楽しさ”の中に潜む、強烈なメッセージ

 まずは作画。デフォルメされた動物たちが、生き生きと自由に動く。特に目の演技は極上で、これまで作られたどんな作品(実写を含む)の目芝居をも凌駕する。あらゆるものを擬人化して描いてきたアメリカン・アニメ、その蓄積の発現といえるだろう。
 そう、擬人化。この動物たちは、実は人間なのだ。身勝手で、無分別な行動によって周囲に迷惑をかけ、あっちはイヤこっちもダメとダダをこね、利用できるものはなんでも利用しようとし、権威・権力に執着する。まさに人間そのものだ。

 次いで音楽とストーリー。アレックスと別れたマーティの様子に、またも懐かしめの音楽、『What a Wonderful World』が重ねられる。そこで描かれるのは、自然の摂理に逆らおうとして己が無力さを味わわされるマーティの姿。“愚かな人の手では、どうにもならない世界”こそが、素晴らしき世界だと教えるかのような場面。

 じゃあ人の、種としての美徳とは何なのか。その回答が、ライオンであることを捨ててまでマーティの友人であろうとしたアレックスの、悲愴なまでの決意と行動だ。人を人たらしめているのは、友情と博愛、あるいは自己犠牲と利他的な精神。人は自らを自然の摂理から隔離して生きよ、そうすることによって飢えに襲われるだろうが、お前たちが歌う素晴らしき世界は、お前たち抜きでこそ成り立つのだ。
 もともと大好きな曲なのだが、こんなにもサッチモの歌声が心に染み入ってきたのは初めてだ。

 極みはラストカット。お前ら、ケラケラ笑って観てるんじゃねえ、いま人間がどういう状況にあるのか“目を覚まして”考えてみろ。
 この映画の作り手たちは、地球と人間との関係はそこまで追い詰められているのですよと、楽しさのベールの向こうから実情を突きつけてくるのだ。

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