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2007/07/31

壬生義士伝

監督:滝田洋二郎
出演:中井貴一/三宅裕司/夏川結衣/村田雄浩/中谷美紀/伊藤淳史/藤間宇宙/塩見三省/野村祐人/堺雅人/斎藤歩/山田辰夫/佐藤浩市

30点満点中15点=監3/話3/出3/芸3/技3

【新撰組に、金を貪る狼一匹】
 大政奉還、王政復古の大号令と、時代が大きなうねりを見せていた幕末。壬生の狼と恐れられた新撰組に、いっぷう変わった隊士がいた。剣の腕は誰よりも優れ、どんな仕事でも進んで引き受ける男、南部脱藩・吉村貫一郎。しかし、彼にとっては金がすべて。故郷に残してきた家族へ金を送るため、死ぬわけにはいかない。そんな姿を、死に場所を探すため新撰組に籍を置く斎藤一は快く思わなかったが、なぜか興味を惹かれるのだった。
(2002年 日本)

【「伝えたいこと」のない映画】
 一所懸命に作っていることはわかる。カメラは大きく動いてスケール感を創出し、丁寧にカットを割って各人の表情へと迫っていく。中井貴一も佐藤浩市も気迫のこもった演技を見せる。人の生身を切り裂き貫く刃には、重量感も鋭さもたっぷりと感じ取れる。
 白髪のカツラがコントっぽかったり京都の屋外の光が現代っぽく見えたりもするが、全体としては真面目に、正々堂々と作ってある。

 が、この映画には「伝えたいこと」がない

 幕府を「守る」側、薩長を「壊して作り直す」側とすれば、吉村は所属する組織も個人としての立場も「守る」である。特に家族を守るためには、どうしても銭が必要であり、それが彼にとって何より大切な“義”だった。
 最初は吉村の生きかたを疎んじ軽んじていた斉藤も、結局は二度是認することになる。斉藤には、守りたい人を守れなかった悔恨があった。吉村によって守られたものが新時代にすくすくと伸びていることを間近に見ることもできた。斉藤が、自分ができなかった生きかたを吉村に託したり、憎いと思っていた斉藤の正しさを認めて晴れやかになるのは、まぁわかる。

 でも、吉村はなぜ、家族を含む大多数の民が飢える“こんな世の中”を守らなければならなかったのだろうか?
 次郎右衛門の付き人・佐助は、実に手際よく塩むすびを握る。つまり、どれほど世間が飢えていても次郎右衛門の家にだけは白い米があったのだ。さらに佐助は上手に立ち回り、幕末後に財を成す。
 そんな「立ち回りの上手い人」だけが生きながらえる世の中で、“義”にどれほどの値打ちがあっただろうか?
 家長としての“義”と武士としての“義”は、どのようにして吉村の中で両立していたのだろうか?
 また斉藤の「死に場所を探す」という想いは、なのに生き延びてしまった切なさは、どこへ消えてしまったのだろうか?

 それもこれも「伝えたいこと」がないために、物語に芯となるべきものがないために、うやむやになってしまっているのだ。
 芯がないから、あれも入れよう、こんな場面も作ろうと表層的な羅列に終始してしまう。ナレーションが多くなる。視点がコロコロと変わる。どうやら原作も多視点で書かれているようで、それをそのまま工夫もなく採り入れるあたり、まさに作り手に「伝えたいこと」がない証拠。
 最終的に着地点をなくし、ラスト30分、「劇・芝居」へと逃げる力技で締めてしまう。
 必ずしも映画に「伝えたいこと」=テーマが必要とはいえないが、向かうべき場所がないと、こうして足もとがふらついてしまう。

 伝えたいことを十分に盛り込み、さまざまな「?」に対する答えを余さず描いてクリアにするためには、1年かけて大河ドラマとして見せるかしかないのかも知れない。そうして、もっと濃密に、もっと丁寧に、ひとりずつについて行動の動機と経過と結果をひとつずつ示しながら、この時代だからこその「価値観のぶつかりあい」と、それゆえに苦悩する男たちの生きざまを示してこそ“新撰組もの”として成立するのではないかと思う。三谷版『新選組!』は、そうして傑作となり得たのだ。

 あるいは2時間強の本作を1時間半に再編集してみてはどうだろう。そうすると、もう徹底して吉村の内面だけに話を絞らざるを得なくなる。この時代に対する吉村の価値観も盛り込まざるを得なくなる。斉藤との「価値観のぶつかりあい」も鮮明になり、“義”というものについても考えさせる作品になったことだろう。

 それなりに名のある人たちが真面目に作っても、“義”について『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』ほどには考えさせてくれないというのは、ちょっとマズイと思う。

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