リンダ リンダ リンダ
監督:山下敦弘
出演:ペ・ドゥナ/香椎由宇/前田亜季/関根史織/三村恭代/湯川潮音/甲本雅裕
30点満点中17点=監4/話3/出4/芸3/技3
【雨の文化祭最終日。トリは女の子バンドのブルーハーツ】
文化祭が間近に迫る芝崎高校。軽音楽部は体育館での演奏会を予定していたが、ドラムスの響子、キーボードの恵、ベースの望らが組んだバンドではギタリストの萌が手に怪我を負い、おかげでケンカが発生、凛子が脱退してしまう。急遽、恵がギターを務めることになり、ヴォーカルには韓国からの留学生ソンを迎えて徹夜の猛練習を開始。本番まで、あと3日。東京へ行ってしまう恵の元彼や響子の想い人などとともに、時間が流れていく。
(2005年 日本)
【こういう映画の作りかたもあるのだな】
思い浮かんだのは定点観測という言葉。高校の内外にカメラを設置し、そこに映り込んだ諸々の中から、ソン、恵、響子、望に関連した出来事だけを集めてつないだ、というイメージの作品だ。自然とアップは少なくなり、バンドメンバーにはかなりの美形をそろえているのに、もったいないなぁと感じてしまう。
そうして退屈な絵が続くうえに、4人のキャラクターに奥行きがなく、みんな同じように低く曖昧なテンションで喋るし、文化祭やライブ前独特の高揚感もまったくなくて、キレのない、ゆるりゆるりとした会話や展開で時間が流れて行く。
ハッキリと、嫌いなタイプの作り。約120分を100カットで撮る(あくまでも体感ね。実際には「もう少し」多い)というのは映画としてどうなのよ、と思ってしまう。
緩いのがリアリズムなんて勘違いしてんじゃねーぞ、なぁんて毒づきたくなる。あるいは「“作り込む”ことで作られる“現実離れした作品世界”に対するアンチテーゼとして、なるべくナチュラルな空気感を出すことに注意した作品なのかな」と、好意的に解釈してみたりする。
ところがどうして、かなりの『思惟』が詰め込まれた映画であることに、やがて気づく。
たとえば「さっき謝ったじゃん」「がんばってもいい?」といった、どこにでも転がっている“言葉”が、スパイシーな“台詞”として用意され、ドキリとさせるマジック。
あるいは楽器の練習と関係のないことで時間をつぶす彼女たちの様子から垣間見える「高揚しない緊張感」とでも呼ぶべきもの。
ドゥナちゃんのトボトボとした歩きかたやオドオドした姿は『ほえる犬は噛まない』などとはまったく別物で、つまりはソンという人物を彼女なりに精一杯表現した演技であることがわかる。
大ベテランの前田亜季も、彼女らしくないたどたどしい話しかたと振る舞い。つまりは、これもお芝居。
バンドの前座として、明らかに彼女らより才能があると思われる“はぐれた人たち”が用意されているのも、突然の雨も、どう考えたって『思惟』であり『構成』である。
ついでにいえばところどころで下手なキャストが下手な演技でポロを出して「これは生の高校生活ではなく映画である」ことが露見する。
実は相当に、思惟というか計算というか、「こういうものを作ろう」という意志が詰め込まれていて、その結果として“ゆるりゆるり”が出来上がっているのだ。アレとかコレみたいにセンスがないせいで絵や展開が退屈になっているのではなく、ハナっからの狙いとして“ゆるりゆるり”なのだ。
そして、爆発。
作られた“ゆるりゆるり”がこの瞬間のためにあったこと、爆発するのに大きな理由なんかいらないってこと、爆発の後にはきっと何も残らないであろうということ、結局のところ高校生活なんて“ゆるりゆるり”と爆発の繰り返しなんだよなぁという想い……などが一挙に押し寄せてきて、目頭が熱くなる。
映画の中のリアリズムなんて、しょせん“作られたもの”である。それはそれで大切であり、リアリティを作り込むことこそ映画の本分ではあるのだけれど、けれど、作り込んだ結果としてのファンタジーも求めたい。たとえば、徹底的な計算と思惟によって“作られたリアリズム”を完璧にコントロールし、加えてさまざまなメッセージを押し込めて、結果、「そこまで鮮やかな世界は、むしろ幻想(ファンタジー)として存在するほかないだろう」というところにまで昇華させた『花とアリス』なんていう作品が存在する。
で、本作はいってみれば、リアリズムとファンタジーの境界線に立ってリアリズム側を見ながら歩いているんだけれど最後には背後のファンタジーも感じさせてくれる、というタイプの映画(自分でも何をいっているのかよくわからんが)だ。『花とアリス』のほうが映画的にも優れていると思うし好みでもあるのだが、こういう作りかたもあるのだなぁと、新鮮な楽しさを味わうことができた。
あとそれから、ドゥナちゃんはブサイクでも可愛いし、前田亜季は太っても可愛いし、ブルーハーツ(え? 甲本雅裕ってヒロトの弟だったんだ)は偉大だなぁ、という感慨を抱かせる作品でもある。
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