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2007/07/15

空中庭園

監督:豊田利晃
出演:小泉今日子/鈴木杏/板尾創路/広田雅裕/ソニン/勝地涼/永作博美/瑛太/今宿麻美/國村隼/大楠道代

30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技3

【完全な計画のもとに作られた、幸せな家族】
 マンションが立ち並ぶ郊外の新興住宅地。会社員の貴史、妻の絵里子、高校生の長女マナ、中学生の長男・航からなる京橋家は幸せに暮らしている。この家では「家族の間では隠し事を作らないこと」がルール。性のことをはじめとして、あらゆる話題が食卓で交わされる。だが絵里子には、幼少期の体験など絶対に隠し通さなければならない秘密があり、貴史もマナも航もまた口に出せないウラの顔を抱えているのだった。
(2005年 日本)

【詰め込み手法で、タネいっぱい】
 典型的な“最近の日本映画”といったところか。半径の小さな世界、ゆるすぎる間(ま)、舞台劇風の芝居、語りすぎるシナリオ、引き気味の画角の長まわし……。小説として完成されているはずの話をわざわざ映画化することには業界に蔓延する「企画力の欠如」を感じるし、技術的・予算由来的な瑕疵(本来ならリテイクされるはずのカットの使用)も見られる。

 ただ、1本の映画として成立させようとする工夫・気概(というか、この監督が「これは俺の作品だ」というためにおこなわれたこと)を感じることはできる。
 その手法は、いわば“詰め込み”。恐らく原作では行間にこめられているであろうメッセージを余すことなく詰め込んだ、という感じだ。

 たとえば回転。カメラはぐるぐると回りながらマンションやリビングをうつし、観覧車が回り、同じ旋律がリピートされる。
 その意味はもちろん、作中でも言及される“繰り返し”だろう。壊してやり直して築いてゆく。その繰り返しで幸せな家族は作られるわけだ。
 ラストカットは白い花。リセット直後のこの純白も、やがては欺瞞という血によって、冒頭で食卓に飾られていたような赤い花へとふたたび塗り染められていくことだろう。

 たとえば視点。主人公である絵里子だけでなく、家族全員、さらには祖母さと子、部外者であるミーナやモッキーや貴史の浮気相手やエロ兄さんにいたるまで、多くの人の、それぞれの価値観をシーンに収める。この作品がどこに主軸を置いているのか判然とせず、観客に戸惑いを与えるほどに散文的だが、それは「人生の、いろいろ」というテーマをこの作品に詰め込もうとしたがゆえだろう。

 そう、人生いろいろ。そのいろいろなモノゴトは主観によって、どうとでも捉えることができる、というメッセージも発せられる。絵里子の記憶。花の仕掛け絵。窓は抜け出すために使われることもあれば、日光を呼び入れる役割も果たす。人もモノも記憶も、ただ一面だけを持っているわけではないのだ。
 そこに思い込みが介入することによって、ある一面が固定されてしまうことになる。作中では「思い込みは本当のことを見えなくする」と述べられているが、むしろ「その人にとっての本当が意識的に作り出される」とか「人は見たいものだけを本当のものとして見る」というイメージのほうが強い。その“本当”が幸せをもたらすのなら問題はないのだろうが、家族という社会では構成員それぞれの思い込みが交錯し、結果として歪な世界、気味が悪くて頭も悪い人々が作られてしまうわけである。

 ま、それはそれでいいのだろう。だいたいよそさまの家庭なんて、京橋家ほどではないにしても、たいがい気味の悪いものだ。ルールを決めて幸せ家族を作り出す、なんて行為は、世界中どこでだっておこなわれているのである。そうした行為を、やり直して繰り返すことによって、“家族・家庭”は人類史上もっとも長く維持されている社会システムとして今日まで生き残ってきたはずだから。
 絵里子の、振り返ったときの顔、「死ねば」と吐き出す口調、すなわち彼女の本音は、本来は不気味な印象を与える要素であるが、妙にスカっとさせられる。貴史がいう「愛がなかったら続けられるかい」という言葉ももちろん本音であり、こちらもまた観客に癒しを与える。
 欺瞞と思い込みが僕らにストレスを与えているせいであろう、どうしても本音という浄化装置を求めてしまう。本音によって、“作り出された世界”がいったんリセットされ、爽快感とともにやり直し・繰り返しのスタート地点へと戻るわけだ。その浄化作用があったから、“家族・家庭”というシステムは生きながらえてきたのだ。

 と、つらつらと考えさせるネタが“詰め込まれた”、タネ系の映画。あと「杏ちゃんをオレにくれ。ついでにソニンの胸と足もくれ」な映画でもある。

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