メゾン・ド・ヒミコ
監督:犬童一心
出演:オダギリジョー/柴咲コウ/田中泯/西島秀俊/歌澤寅右衛門/青山吉良/柳澤愼一/井上博一/森山潤久/洋ちゃん/村上大樹/高橋昌也/大河内浩/田辺季正
30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技3
【海辺に建つ、ゲイのための老人ホーム】
小さな塗装会社に勤める事務員の沙織は、春彦に頼まれて、日曜だけのアルバイトを始める。場所は海辺にたたずむ老人ホーム。そこは、かつて沙織と母とを捨てた父、銀座のゲイバーでママを務めた卑弥呼が、ホテルを改装したゲイのための施設『メゾン・ド・ヒミコ』。父に対して怒りをぶつける沙織。だが、懸命に明るく暮らす老いたゲイたちの姿、卑弥呼を愛する春彦らに触れて、次第に沙織の心にも変化が現れ始めるのだった。
(2005年 日本)
【おそれを読み取れ】
これは、ゲイの末路や、ゲイに振り回された女性の様子を描いた作品というよりも、“おそれ”をテーマとした物語なのだろうと思う。
異端ゆえに社会から弾き出されること、自分も異端だと自覚すること、これまで全否定していた存在を認めてしまうこと、愛する人を失うこと、そしてもちろん死……、それらに対するおそれ。
ある者は、そのおそれを払拭するために異様なまでのハイテンションで世の中を乗り切っていこうとする。別の者は暴力へと走る。おそれを感じずにすむよう代替物を求めるものもいる。またある者は涙とともに浄化しようとする、事情を知らない息子にルビーさんを押し付けて「ひょっとしたら受け入れてもらえるんじゃないか」と期待する。
そうした、おそれに立ち向かったり紛らわせたりする様子を淡々とつづった映画だ。
印象深いのは、ほぼ寝たきりの卑弥呼=田中泯の存在感である。「母さんと私を捨てて、寂しくはなかったの?」と尋ねる沙織に、それは下手な聞きかただと切り返す。
彼(または彼女)自身、その逡巡に何百万遍も身をゆだねて今があるのだろう。家族を捨ててでも自己実現を果たすために、うっかりすると足元を掬われかねない夜の銀座で生き抜くために、間近に迫った死期と冷静に対峙するために、どれほど多くの“おそれ”と戦ってきたのだろうか。
その父・卑弥呼と向かい合う沙織=柴咲コウも絶品だ。見事なまでに「ブスな女」を演じ切っている。クレジットのトップはオダギリジョーだが、間違いなく彼女のための映画になっている。
田辺季正君の、いかにもショタ好みの顔つきも、なかなかいい。
映画的な楽しさは、ほとんどない。が、下手に語りすぎておらず、登場人物それぞれの心情を読み取らせようという展開・描写・演技に徹していて、頭の悪さは感じられない。
そして、その「読み取る」ことの心地よさを味わえる映画ではある。
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