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2007/07/07

ニライカナイからの手紙

監督:熊澤尚人
出演:蒼井優/平良進/金井勇太/かわい瞳/比嘉愛未/斎藤歩/前田吟/南果歩

30点満点中20点=監5/話4/出4/芸3/技4

【毎年届く、おっかぁからの手紙。いつか逢える日を信じて】
 竹富島から見る水平線の向こうには、神々の住む国ニライカナイがあるという。おっとうを亡くし、おっかあも東京へ行き、7歳の風希は郵便局長のおじいとふたりで暮らすことに。彼女の楽しみは、毎年誕生日に届くおっかぁからの手紙だ。高校を卒業した風希は「二十歳になればすべて話す」というおじいの反対を押し切り、父の形見のカメラを持ち、カメラマン修行のため東京へと出る。そこでも彼女を支えたのは母からの手紙だった。
(2005年 日本)

【見事なまでの“時間”の作りかた】
 時間の流れが、本土よりも緩やか。沖縄経験者は、そんなふうに口をそろえる。が、那覇と本部(もとぶ)を訪れたたった一度の観光旅行では、その緩やかさを明確に感じ取ることはできなかった。
 というよりも、歩くスピード世界一の街・大阪で生まれ育った身の骨の髄まで染み込んだ“時間”と、南の島に流れる“時間”との落差はあまりにも大きくて、その境目は交じり合うことも渦を作ることもなく、まったくの別物・異次元として自分の内と外とに存在したのだろう。沖縄時間が自分の中に流れ込んでくることも、自分の時間が沖縄へ流れ出していくこともなく、それゆえに感知することができなかった、ということなのかも知れない。

 本作でも、ゆったりと時間が流れる。ただし今度は、その緩やかさを実在のものとして感じ取ることができる。
 なぜなら自分の中にある「映画には、理路整然とした展開、計算され尽くした構成、作り手の『こんな映画にしたいんだ』という意志を求める」という想いがアンテナとなって、本作に詰め込まれた“それら”を捉えることができたからだ。

 たとえば、食器ひとつひとつを丁寧に拭く風希の姿からは、彼女がどんなふうに育てられたかが伝わる。ニンニク漬けのレシピは、恐らく近所のおばぁから教わったもののはずであり、それはおっかぁも同じように教わったのだろうと思い至る。
 ヒザをポンポンと、あるいは背中をバシっと叩く風希と海司、なにげない「じゃれあい」が、ふたりの結びつきを物語る。
 書類といっしょに立てられたポケットティッシュ、欠かすことなくおこなわれるご近所との挨拶や道の掃き掃除、カメラマン・アシスタントとしての仕事ぶり、そんな日常が丁寧に描かれ、風希が過ごした世界がどのようなものであるかを僕らにも見せてくれる。
 ポストに向かって手を合わせる7歳の風希と19歳の風希。弁天橋の下見と当日。背番号1のTシャツ。時を隔てる2つのシーンが、見事に重なる。
 ややハイキーでソフトフォーカス気味の撮影、常に「あかり」が意識的に画面の中へと置かれ、特に風希は逆光で映されることが多いのだが、それらは風希が「優しい光」で常に包まれ守られていることを意識させる。

 約13年に渡る風希の生活から切り取られたシーン/カットは、無駄がなく、かつ美しく、切り取られなかった部分までしっかり想像させるように、それぞれが有機的につながるようにして積み重ねられる。
 徹底して計算された構成・展開が、緩やかな時間の流れを作り出す、この不思議さ。あるいは、どんなにゆったりと感じられる時間の中にも、意味のあるモノゴトがギッシリと詰まっているのだというメッセージ性。
 見事というほかない「時間の作りかた」だ。

 そして僕らは、凄まじいまでの質量を持つ時間と想いが、風希の中へと流れ込み、風希の中から流れ出てくる瞬間を目撃する。

 その奔流は、僕らには堰き止めることも弱めることもできないけれど、どうやら島の人たちは対処法を知っているようだ。竹富島ならではの「誰かとの距離感」とでもいうのだろうか。
 加えて風希のそばには「蒼井優ファンのオトコ」のための感情移入ツールとしての海司が配され、彼は実に間の抜けた、けれどこれ以上ないセリフを口にする。
 好きな人とこんなふうに向かいあえる優しさと強さを身につけられるのなら、沖縄時間を少し自分の中に流し込んでみるのもいいかな、と思った。

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