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2007/07/12

かもめ食堂

監督:荻上直子
出演:小林聡美/片桐はいり/もたいまさこ/ヤルッコ・ニエミ/タリア・マルクス/マルック・ペルトラ

30点満点中18点=監4/話4/出4/芸3/技3

【北の国の食堂に、今日も誰かが訪れる】
 ここはフィンランドのヘルシンキ。おにぎりをメインメニューとして出す小さなお店「ROUKALA LOKKI(かもめ食堂)」を営むサチエだったが、閑古鳥が鳴く。ようやくお客が来たと思ったら、タダでコーヒーを飲んでいく日本かぶれの青年トンミ、強い酒をあおっていきなり倒れる婦人リーザ、空港に荷物が届かないマサコなど妙な人々ばかり。書店で知り合った、これまた妙なミドリをお手伝いに迎えて、今日も食堂は開かれる。
(2005年 日本)

【コピ ルアックと唱えよう】
 かなり映画的ではない映画。
 セリフは言葉遣いも発声もクッキリとしていて小説的あるいは舞台劇的に思えるし、固定カメラの長回しで生まれる絵も舞台劇的なイメージだ。
 また、せっかくオール・フィンランド・ロケなのに、この北国の風景描写は乏しい。空気感や色合いも渋谷あたりとさして変わりなく、美術も過剰にはフィンランドらしさを強調したものではない(撮影も美術も現地の人なんだけれど)。
 映画だから可能な鮮やかな演出・絵作りは少ないといえる。紡がれるのも、どうということのない日々である。

 が、本作では、その“映画っぽくない”点と、どうということのない物語がそっくりそのまま魅力となっている。
 肩肘張らずにふんわりと、この世界に入って「いらっしゃい」の声を聴くことができるのだ。

 人生なんてしょせん、どうということのないもので満ちている。ガッチャマンとか、エアギター選手権とか、ムーミンとか。
 けれど、どうということのないものの中にも、または、どうということのないものの中にこそ、どうしても譲れないものが存在する。父からの教え、鮭と梅干とおかかのおにぎり、手に馴染んだコーヒーミル、コーヒーを美味しくする魔法の呪文、タテ書きで文字を連ねるペン……。
 そうしたものを譲らずに、大切に守っていくことによって、人生には“おかしみ”や豊かさが生まれるのである。

 とはいえ、ガチガチに武装して守ろうとしても疲れるだけ。時にはプールや森や思いっ切り漕ぐ自転車でリフレッシュすることも必要だ。
 そして、自分と同じように目の前の人にもその人なりの譲れないものがあると認めつつ、柔軟に、楽観的に構えて「いらっしゃい」と迎え入れることで、自分自身の譲れないものもまた守られるのである。

 サチエさんはそうしたことをわかっていて、日々を暮らしている。お店を満席にしたいという願いは、彼女にとって、どうということのないものであると同時に譲れないものでもあり、その願いが叶うということは、単なる夢の実現じゃなくて、彼女の「いらっしゃい」的生きかたが間違っていなかったことの証明なのだ。
 この人物を演じるのに、中性的で、他者とのボーダーを感じさせず、でもしっかりと自分というものを持つ小林聡美ほどの適役はいまい。

 意外と見過ごされがちだけれど、トンミ・ヒルトネン君も本作におけるポイントである。いつも笑顔で、ノホホンとして、タダでコーヒーを飲んでいく憎めない若者。友だちはいないようだけれど、相手に楽観視させてスルスルと懐に潜り込む術を生まれながらに知っているようだ。いわば「こんにちは」的な生きかた。
 そう、人は「いらっしゃい」と「こんにちは」で誰かと関わり合って生きていくものなのである。

 ナレーションで始めたのならナレーションで終わらせるべきだろう、ちょっとファンタジー色は邪魔だったな、視点の揺らぎも気になるぞ、など引っかかる部分も多々あるし、このゆったりした流れや“間”に馴染めないと退屈する可能性もある。
 けれど、「いらっしゃい」的生きかたを、「こんにちは」的生きかたを、わざわざお店に行ってコーヒーを飲む理由を、料理を作る意味を、ふんわりと教えてくれる。
 そのふんわりと人生の真理とをフィルムの中に閉じ込めることに成功しているのだから、あるいは実は、けっこう映画的な作品なのかも知れない。

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コメント

はじめまして。福岡のつばめと申します。
『きいてほしいの あたしのこと』を検索してヒットして以来、楽しく読ませてもらっています。
ありがとうございます。
恥ずかしながら、私も小さなブログを作っております。
『私のお気に入り』として、リンクさせていただいてもよろしいでしょうか…

投稿: つばめ | 2007/07/12 21:48

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