世界の中心で、愛をさけぶ
監督:行定勲
出演:森山未來/長澤まさみ/大沢たかお/柴咲コウ/宮藤官九郎/高橋一生/菅野莉央/杉本哲太/山崎努
30点満点中17点=監4/話2/出5/芸3/技3
【忘れていたこと、忘れられない人】
結婚を間近に控え、新居への引越し作業を進める松本朔太郎と藤村律子。荷物の中から1本のカセットテープを見つけた律子は、台風の近づく高松へと飛ぶ。それを知った朔太郎も故郷・高松へ。そこは高校時代に朔太郎が、クラスメイトの広瀬亜紀と過ごした町。亜紀は白血病のため17年前の台風の日にこの世を去っていた。ふたりの想い出の場所を訪ね歩く朔太郎。いっぽう律子も、それまですっかり忘れていた大切なことを思い出すのだった。
(2004年 日本)
★かなりネタバレを含みます★
【お話のまとめかたに難ありも、心打つ一瞬もまたあり】
「いまさらセカチューですか」
「映画の内容も“いまさら”だったな。海に向かって叫んだり波打ち際で戯れたり相合傘を描いてみたり」
「佐野元春に渡辺美里にウォークマンと、80年代もズラリ」
「撮影が岩井組のキーパーソン篠田昇ということもあって、この監督の師匠と同じくソフトで光のやわらかな画面。ノスタルジックだねぇ」
「でも雰囲気だけの映画じゃありませんよね」
「そのあたりも師匠ゆずりなのかな。『ロミオ&ジュリエット』とか焼きそばパンとか台風とかカーディガンとか、細かなピースを上手く物語の中に組み込んでストーリーを立体的にしてある」
「映画的な面白さもありました」
「現在と回想との結び付けかたなんか映像的なつながりがあってスマートだったし、サクが殴られるところの長回しからは痛みとか焦りとかが感じられてよかったね」
「ただ、ちょっと“しつらえた”感もあります」
「ピースをいろいろ盛り込んだのはいいとしても、展開が偶然に頼りすぎている気がする。それに亜紀のキャラクターを『勉強もできてスポーツ万能で人気者』ってセリフだけで説明しているのも気に食わない」
「でも、同じ脚本家(坂元裕二)の『ギミー・ヘブン』(松浦徹監督)よりはマシだったでしょう」
「ああ、あっちは10分でギブアップ。何でもかんでもセリフで説明してたもんな」
「本作は最後までちゃんと観られましたからね。監督と原作が良かったのかも知れませんが」
「まぁ借用が多いのはどうかと思うけど」
「そもそもタイトルからして借用ですからね。ビニールカーテン越しのキスは『愛と死を見つめて』っぽいし」
「終盤でテーマがあやふやになったのも、ちょっとな」
「それが一番の傷ですよね。ずっと残酷な話だと思っていたんですが」
「うん、のこされること、のこされるもの、その残酷さ、だね」
「周りから取りのこされていく亜紀、その亜紀にのこされてしまうサク」
「そこで止まってしまった時間をサクは動かそうとするんだけれど、カタチや場所として想い出がのこってしまっているために、そこから抜け出せないでいる……。『天国は生き残った者が発明した』ってのも、ある意味で残酷な真理だしな」
「あの“結婚写真”も残酷ですよね」
「確かにこういうひとときをふたりは過ごしたんだ、本当の結婚写真を撮る未来があったかも知れないのにって、イヤでもサクの胸に突き刺さってくるでしょ。残酷なまでに痛いよ」
「ところが、律子の役割が、ねぇ」
「そうそう。あの子がクルマにはねられた瞬間にさ、一気に物語のテーマが明らかになったと思ったんだよ」
「本来は彼女、テープの相手が誰なのかを知っているべきですよね」
「下駄箱でサクと逢っているんだもんな。朔太郎と律子がおたがいに亜紀を挟んだ関係であることを知っていないと、それこそ偶然に頼りすぎていてドッチラケだよ」
「知ったうえで交際して結婚する、というのが正しいありかたですよね。律子は朔太郎の心の中に“止まったままの時間”があることを感じて、だからあの最後のテープを渡さなかった。それがピョンと出てきたもんだから罪悪感で高松まで行っちゃった……」
「つまり律子も『残酷さ』に支配されている人生を送ってきた、という方向に進むと思ったわけだ」
「ところが、なんかスッキリして終わっちゃうんですよね、サクと律子」
「これだとさ、『ああ、そういえば亜紀って子がいたんだよなぁ。すっかり忘れてたよ』『わたしも忘れていたけど、実はこれこれこうだったの、ごめんなさい』『あ、そうだったの。じゃ、せっかくだから新婚旅行はオーストラリアにしよっか』っていう、なんとも軽いふたりになっちゃう。ここまでの描きかたは重いわけだから、整合性が取れていないように感じるよな」
「と、気になる部分も多々ありますが、それを救ったのが……」
「森山未來と長澤まさみだな。クレジットでは大沢たかおと柴咲コウが先なんだけれど、実質はこの若いふたりの映画」
「両方とも可愛くって上手い。どちらも表情の作りかたや声の出しかたがキュートなんですよね」
「このふたりを見つめる視線もいい」
「極度に近寄らず、見守るような距離感でしたね」
「それが逆に感情移入を誘うんだよな。たとえば、路面電車が近づいてくるのにホームから降りちゃう亜紀の姿に僕らはハっとして、『この子を守らなきゃ』っていう気持ちを抱いてしまう」
「サクについては、あの2通目のリクエストはがきですね」
「彼ができる精一杯のことを、彼なりの方法でやっている。そういう“バカな男のあがき”にシンパシーを感じる。あと空港で『もう帰ろっか』ていうときの無念さと優しさが混じった顔も心を打つね」
「ブームになったのも、わかる、という感じですか」
「いや、前述の通り借用もあるし話のまとめかたも気に障るし主人公を殺しちゃうのも安直だし、いうほどスゴいストーリーでもなければスゴい映画でもない。ただ意外だったのは、頭の悪いストーリーや頭の悪い映画じゃなかったことだな」
「昨今のハヤリものって、何も考えずに観ていられる頭の悪いものが多いというイメージがありますからね」
「ところがこの映画は、必要以上に説明したりわかりやすくしたりするのではなく、いや、そういう部分もあるんだけれど『このとき亜紀はどう考えていたんだろう』『サクは何を思っていたんだろう』『あ、そういうことだったのか』って、想像力とか読解力も要求する作りになっている」
「そういうものが広く受け入れられたということは」
「日本の未来も捨てたもんじゃないのかも」
「では、お約束のまとめで」
「おう。頼むから、ホント頼むから、長澤まさみをオレにくれ!」
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