時をかける少女
監督:細田守
声の出演:仲里依紗/石田卓也/板倉光隆/原沙知絵/谷村美月/垣内彩未/関戸優希/松田洋治
30点満点中19点=監4/話4/出4/芸4/技3
【時間を超える力を手にしたとき、彼女は】
クラスメイトの間宮千昭や津田功介と、キャッチボールやたわいもない会話に明け暮れる高校生・紺野真琴。ある日、理科実験室で転んだ彼女は時間を自由に行き来できる“タイムリープ”の能力を手に入れる。最初は戸惑ったものの、失敗した1日をやり直し、あるいは楽しい時間を繰り返して力を満喫するようになる真琴。だが彼女がタイムリープ能力を駆使することで誰かが傷つき、大切な人の人生をも狂わせることになるのだった。
(2006年 日本 アニメ)
【ちゃんと作られた人間賛歌】
3人が野球に興じるオープニング、真琴の投球がやや外角にハズれ、それに対して千昭が身体(立ち位置)を移動させて打ち返す、という場面で、早くも本作が“いい映画”だと実感できる。
つまり、画面上に、生きた高校生がそこに存在することを観客の心に浸透させるための「ナマの動き」とでも呼ぶべきもの(いわゆるリアリズムというより、表現の丁寧さ、か)を細やかに描き出そうという意図が徹底されているのだ。
以後も、ベッドの上をコロコロと転がって電話を取る真琴の姿、ゆらゆらと揺れる縄のれん、石ころで遊ぶ子どもたちといった「ナマの動き」が、作品を実在感あふれるものへと押し上げていく。
細やかかつ立体的に作られた背景(美術監督・山本二三は『未来少年コナン』の人。本作の公式ブログでも仕事ぶりが紹介されている)や光の差しかたもいい。まず世界が構築され、その中に人物を配置するという作り。これによって、さらに、ファンタジー・アニメであることを離れて「ナマ」が強調されていく。
そのせいか純邦画的な「引き気味で固定のカメラアングル」となっているカットは多いのだが、こうしてアニメで観ると、この画角も意外と新鮮。同一のアングルが繰り返し用いられる(この監督が得意とする手法らしい)ことも、同じ時間を繰り返すという本作のストーリー・構造をクッキリと浮かび上がらせることに寄与している。
タイムリープについてセリフで“説明”してしまっているところは惜しいのだが、会話のナチュラルさと透明感は素晴らしく、文学的な香りもあり、笑えて泣けて、なにより幾度も映画化・ドラマ化された名作を現代風に上手くアレンジ、しかもふんわりしながら一本筋の通ったお話としてまとめあげてあって、シナリオの仕上がりも上々だ。奥華子によるテーマソングも、作品の主題・空気感をよくすくい上げたメロディと歌詞で心を打つ。
最大の驚きというか収穫というか、よろこびは仲里依紗。紺野真琴というキャラクターに、ピタリとあう。いや、あう、という表現は違うな。
たぶん、仲里依紗自身が実写でこの役を演じたら芝居の稚拙さが気に障っただろう。あるいは本職の声優が真琴に配役されていたなら、声優ならではのクサさに滅入っただろう。
が、まだ怖いもの知らずといった感のある彼女の声のハリと明るさ(特にちょっと鼻にかかったナ行と、語尾がちっちゃな「っ」で終わるセリフの生き生きさ加減)が、セル画による真琴の、デフォルメされながらも丁寧な描写・演出と不思議な相乗効果を引き起こして、ひとりの愛すべき女子高生を作り上げている。
要するに、さまざまな要素がバランスよく、ひとつところを目指して組み合わさっているのである。
こうして“ちゃんと作られた映画”は、何を伝えたいのか、何をいいたかったのかを読み取ろうとする力を僕らから引き出してくれる。
これは、時間モノであって時間モノにあらず。何度もタイムリープはするんだけれど、その行為じたいはどうだっていいのだ。
真琴はしょっちゅう誰かとぶつかる。接触することも多いし、投げたり打ったりもする。他人と同じ時空で生き、さまざまな人との関わりの中で生活していることが印象づけられる。そして、そこで失敗を繰り返して、ようやくのことで自分が進むべき道とか本当に大切なことといった“何か”をつかみ取る。
たまたまタイムリープがキー・アイテムとして据えられ、たまたま真琴にとって“何か”を見出すキッカケがタイムリープになっているけれど、いやホントにたまたま。たとえば「自由気ままにやり直すことで、なかったことにされてしまう出来事」とか「もう逢えなくなる人」といった一瞬の尊さ&切なさがタイムリープによって表出してくるわけだけれど、それよりもむしろ、誰かと関わりながら“何か”にたどり着くことの清々しさとか、傷つかないとそこに達せられない人間(または青春時代)の愛らしい愚かさに対する賛歌、という印象が強い。
だからこそ「待ってる」という、彼女の決断を応援するようなセリフへとつながり、そのセリフに感動できるのである。
おバカなところも含めて人間は素晴らしい。そんな主題を持つ作品に、私は弱い。
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