ワンダーランド駅で
監督:ブラッド・アンダーソン
出演:ホープ・デイヴィス/アラン・ゲルファント/ホセ・ズニーガ/カーラ・ブオノ/ホランド・テイラー/フィリップ・シーモア・ホフマン/キャリー・トーミ/ケン・チーズマン/ヴィクター・アルゴ/サム・セダー/ロバート・クライン
30点満点中19点=監4/話4/出4/芸3/技4
【運命は自分で切り拓くもの】
ボストン、ブルーラインの沿線。看護師のエリンは、活動家のショーンと別れて落ち込んでいた。運命なんて信じないという彼女は、おせっかいな母が新聞に載せた恋人募集広告を利用しようとする。いっぽう海洋生物学者を目指して勉強中のアラン。だが金に不自由し、水族館ではダイバーではなく配管工として扱われる日々に嫌気が差していた。出会いそうで出会わないふたりは、やがてそれぞれ「恋かも」という相手を見つけるのだが……。
(1998年 アメリカ)
【独特の時間感覚とタイミングの面白さ】
出会いそうで出会わないという同様のシチュエーションを扱った『ターンレフト ターンライト』の感想をアップした際、こちらで本作の存在を教えてもらってずっと気になっていた映画。ようやくの出会い。
手持ちのブレを強調したハンディカムの映像+空気の透明感+ジャンプカットがビシバシという作りは『エターナル・サンシャイン』に近い。その画面から漂ってくるしっとり感・虚無感も『エターナル~』と共通している。
そして、しっとりしているのに笑える(しかも大笑い)という意外な仕上がりを見せるのが面白い。ただし『ターンレフト~』のバカさ加減(そのバカさが魅力でもあるんだけれど)に対し、こちらは「よくデキた映画」としてのまとまりを持ち、しっかり作り込まれていて、それゆえにニヤリ&ワハハとできるのが特徴だ。
特筆すべきは、抜群とでもいうべきタイミングのよさ。エリンとアランが間一髪で接点を失う場面、たとえば「エリンがアランの弟ケヴィンにかけた電話をアランが受ける」あたりとか、新聞に水がこぼされたおかげで浮かび上がるアレとか、ドキっ、ニヤっとさせる瞬間の作りかたが素晴らしい。
そうした“一瞬の創出”だけでなく、ショーンが残していったビデオを見ながら留守録をチェックするエリンの姿など、イライラや寂しさをぐぅわ~と盛り上げていく“時間の流れ”を作り出す技も上々だ。
編集も監督自身が担当。この“一瞬”と“流れ”を生むために、どうしても自分でフィルムをいじりたかったのだろう。
お話としても、かなり面白い。
エリンとアランそれぞれの生い立ちや置かれた立場を示すエピソードが無理なく詰め込まれていて、しかもそれらが説明しすぎたりクドイ描写になったりせず、なんてことはない各エピソードがそのままストーリーのメインストリームにいつしか化けていたりして、インテリジェンスを感じさせる構成と展開。独特の“しっとり虚無”な時間感覚に能天気なボサノヴァが乗っかるミスマッチなど、全編に渡って「人生なんて、そうそう思い通りにいかないよ」という皮肉も効いている。
病院の同僚とか金貸しとか、エリンの母、アランの父など周辺キャラクターの配しかたもすごく整理されている。
ま、「結局のところ、だから何なんだ」というお話であり、日本人としてはエリンというキャラクターに感情移入しにくい部分もあるとは思うが、出会いや理想と現実の乖離について考えさせたり、あるいは恋愛を軸とする生きかたについて思いを巡らせたり、そういうパワーを持つ映画ではある。
何より、とても整理されたシナリオ+時間の創出という“映画”らしさを味わえるのが快感。完成度の高い作品である。
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