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2007/08/28

スモーク

監督:ウェイン・ワン
出演:ハーヴェイ・カイテル/ウィリアム・ハート/ストッカード・チャニング/ハロルド・ペリノー・Jr/フォレスト・ウィテカー/ジャレッド・ハリス/アシュレイ・ジャッド/メアリー・ウォード/

30点満点中18点=監4/話4/出3/芸3/技3

【小さな煙草店に漂う煙】
 ブルックリンにあるシガー・ショップ。オーギー・レンが切り盛りする小さなこの店には、毎日なじみの客が顔を出す。数年前に妻を亡くし、その痛手から立ち直れないでいる作家ポール・ベンジャミン。ポールの元に転がり込んできた訳アリの少年ラシード・コール。ラシードが働き始めたガス・スタンドの義手の男サイラス。昔オーギーと恋仲だったルビー。オーギーが毎日同じ時間に撮り続けている街角の写真。それぞれのいまが綴られる。
(1995年 アメリカ/日本)

【やってみなけりゃ始まらない】
 これまで“コワモテ”のイメージばかりあってぜんっぜん気づかなかったんだけれど、ハーヴェイ・カイテルって、こんなに優しい、小動物みたいな眼をしているんだね。
 その優しさが、本作の特徴。優しさというより前向きな心? いや、とりあえず何かをやってみれば何かが起こる、何かをやってみなけりゃ何も起こらないじゃないか、というポジティブな価値観。あるいは達観か。

 たとえばオーギーが撮り続けている写真。その1枚1枚は、撮った本人であるオーギーと、撮られた人々にとっての存在証明となる。被写体が煙のように消えてしまったとしても、その煙には確かに重さがあり、残された者の心に重みを刻み込んでいるのだ。
 ポールだって、本当はラシードの言葉をハナっから疑ったり叩き出したりしてもよかったのだ。サイラスも、そう。本屋の店員をパーティーに誘う必要だってない。
 でも彼らは、誰かの人生に関わることを選んだ。その奥底にあるのはきっと「何かをやってみなけりゃ何も起こらない」という思いだったに違いない。

 優しさや前向きさの源になっているのは、皮肉にも喪失感だ。本作の登場人物はすべて、何かを失った経験を持つ。愛する妻、親、子ども、築いてきた倫理観……。それら大切なものを失ったからこそ、みんな、こんなにも他人に対して優しく前向きになれるのだろう。

 そうしたポジティブさのある作品だが、雰囲気はしっとりとしていて、長回し多用。低予算で、動的なところや映画的スケールの少ないノッペリ映画の雰囲気すら漂う。
 が、1カット/1シーンが実にリアル。次のセリフを発するまでの“間”とか何もいわずに人物が座っているだけの風情とかがギリギリと、その時間ごと実在として迫る。
 同監督の作品である『きいてほしいの、あたしのこと ウィン・ディキシーのいた夏』には作りこんだカッチリ感があったが、こちらは“そのまんまの日常から切り取った出来事”というイメージだ。ただし構図はかなり計算されており、また本作も『ウィン・ディキシー』も「人生における優しさと関わりあいの重要性」をテーマとしている点では共通している。

 独特の間とともにリアリティを生み出す大きな要因となっているのが、ぎっしりあふれる生活感だろう。ショーケースを拭いたり床を掃除したり、ポールが着たきりスズメだったり映りの悪いテレビを叩いたり。そうした日常の1コマが、実在感の創出に貢献している。

 たとえ何かを失って、そのぶん自分の魂が軽いものになったとしても、まったくゼロになるわけじゃない。失ったものは重みを持って確かにそこにあったのだと実感できる瞬間は、きっとやってくるだろう。ポッカリと空いた隙間はただの隙間なんかじゃなく、新しい何かを収めることのできるスペースだと考えることだってできる。
 そんな“優しい考えかた”ができれば寂しい日々を乗り切っていけるということを、極上の実在感とともに教えてくれる映画である。

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