プラハ!
監督:フィリプ・レンチ
出演:スザンナ・ノリソヴァー/ヤン・レーヴァイ/アンナ・ヴェセラー/アルジェヴェタ・スタンコヴァー/ルボシュ・コステルニー/ヤロミール・ノセク/トマス・ハナク/マルタン・クバチャク
30点満点中18点=監3/話4/出4/芸4/技3
【動乱直前、プラハの春に咲いた恋】
1968年、チェコスロヴァキアのプラハ。「プラハの春」と呼ばれる自由な空気の中、高校卒業を間近に控えたテレザ、ユルチャ、ブギナの3人は恋に憧れ、素敵な男性に“捧げる”ことを夢見ていた。でも言い寄ってくるのはオルダら冴えないクラスメイトばかり。そんな時、彼女たちが駅で出会った3人の男、シモン、エマン、ボブ。すぐに恋の花が咲くものの、彼らは「軍を離れてアメリカを目指す脱走兵」という秘密を抱えていた。
(2001年 チェコ)
【プラハ愛のための、不完全なアイテム】
原題は『REBELOVE』。訳すれば“反抗の愛”といったところか。それに対して日本向けタイトルは簡潔でわかりやすいが、たぶん、チェコに思い入れがなければたいして面白くない映画だと思う。
宣伝通り、ポップでキッチュでスタイリッシュなファッションに彩られ、ダンスホール・ミュージックやアメリカンなポップスやビーチ・サウンドに満ちていて、楽しい空気はある。全体として60~70年代のファッション誌やレコードのジャケットをそのまんま動かした、という雰囲気だ。
でもいっぽうで、その当時特有の猥雑さが漂う作風であり、ひと昔前の香港映画のようにガチャガチャとしていて、古めかしさや野暮ったさや完成度の低さを感じる人も多いだろう。煮え切らないまま終わってしまうストーリーに対する抵抗感、後味の悪さももあるはずだ。
ここで、お勉強。
ヨーロッパの中心に位置し、14~15世紀にかけてはプラハが欧州最先端の学術都市になったりもしたが、その後は近隣の大国による支配を受け、第一次大戦後にようやく初代大統領マサリクの擁立とともに独立国家となったチェコスロヴァキア。が、すぐさまナチスに跪くことになり、大戦後もソ連の影響を色濃く受けた共産党支配化で自由は抑圧される。
そんな中、1960年代には共産党批判の声が高まり、時の権力者ノヴォトニーが失脚。新たに共産党第一書記となったドゥプチェクの指導のもと、市場経済原理の導入、言論の自由化などがおこなわれたのが「プラハの春」というわけだ。
この後、「共産党体制の崩壊や反社会主義的な機運・運動が周辺にも及ぶのではないか」という東側諸国の危惧が、本作でも描かれたソ連の侵攻を呼ぶことになる。その直前、長年続いた圧政から解き放たれ、若者が自由を謳歌して“浮かれ”の状態にあった時代が本作の背景である。
ベルリンの壁やソビエト連邦の崩壊に比べれば、社会主義の歴史としては知名度の低い出来事・流れかも知れない。でも、カトリック教会という強大な権力に屈しなかった15世紀の聖職者ヤン・フス、大統領府に掲げられた旗に記されている“PRAVDA VITEZI(真実は勝つ)”の文字、ソ連の侵攻に対して命を賭して講義したヤン・パラフ、平和裏に共産党体制から脱したビロード革命(それからまだ20年もたっていない)など、チェコの出来事や人物のひとつひとつが、いちいち(個人的には)心に触れるのである。
それに、グビグビと一気に飲み干してしまうほど、とにかくビールが美味い土地なのだ。それだけでも称えるに値する。
そうした立場から観ると、プラハ愛を助長するための力をちょっとだけ持つ作品ではあるといえる(あまりプラハらしさは出ていないんだけれど、そもそも手に入る映像作品でチェコの空気を感じられるものは極めて少ないし)。
それに野暮ったいとはいっても、意外と的確に“捉えるべきもの”をカメラはうつし出すし、大胆なカメラワークもあるし、“浮かれ”をしっかりと再現しているし、会話はウィットに富んでいるし、人物それぞれに特徴があって観やすさもあるし、登場する女の子たちはみんな可愛いし。
にぎやかで楽しくて切なくて、つまりは恋愛映画に必要な要素を兼ね備えているともいえる。
誰にもオススメはしない。映画として不完全でもある。けれど、チェコの近代史をそれなりにスマートに「恋愛ミュージカル」へと落とし込んだ、記憶に残る1本だ。
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