キングダム/見えざる敵
監督:ピーター・バーグ
出演:ジェイミー・フォックス/アシュラフ・バルフム/クリス・クーパー/ジェニファー・ガーナー/ジェイソン・ベイトマン/アリ・スリマン/ジェレミー・ピヴェン/リチャード・ジェンキンス/ダニー・ヒューストン/オマー・ベルドゥニ/マームード・サイード/カイル・チャンドラー/ケリー・オーコイン/フランシス・フィッシャー
30点満点中21点=監5/話4/出4/芸4/技4
【テロを引き起こすもの、それは……】
サウジアラビアの外国人居住区で銃撃事件と爆破テロが発生、大勢が犠牲となる。米政府が政治的配慮から本格的捜査へ乗り出さないことを決めたのに対し、事件で旧友を失ったFBI捜査官フルーリーは独自にサウジ王室と接触、爆発物専門家のサイクス、医師メイズ、分析官レビットら部下を率いて現場へと乗り込む。アル・ガージー大佐の協力を得て、事件の背後には潜伏中の大物アブ・ハムザがいることをつかんだフルーリーだったが……。
(2007年 アメリカ)
【見えざる敵の、本当の意味】
冒頭、アラブと米国との間に横たわる「宗教VS利権」という対立構図が丁寧に説明される。そして、圧倒的な迫力で描かれる殺戮……。物語世界へと一気に引き込まれる序盤だ。
その先に待っているのは、貫かれる“リアル”。
手ぶれの目立つドキュメンタリー・タッチで捜査官たちの動きを追いつつも望遠を多用し、「その場に潜り込んではいるが、傍観者の立場に徹する」という撮りかた。
アブダビあるいはフェニックスに再現されたというサウジの町=すぐれた美術と、ダニー・エルフマンによる硬派なサウンド、スタント・チームや特殊効果の素晴らしい仕事、スピーディなカットワークで、緊迫感と臨場感を持続させる。
かと思えばジェイミー・フォックスらの表情にグワっと寄り、各人の顔の演技を大切に拾い上げる。また必要以上に人物関係やストーリーを複雑化せずシンプルに「政治的判断や体制の邪魔を跳ね除けてアブ・ハムザを追う」ことに集約したおかげで、観やすい展開が実現している。
つまり、映画としての「作りの確かさ」を感じられる作品なのだ。
が、娯楽気分に浸らせてはくれない。傍観者でいることなど許されない。日本もテロリストの標的であることや利権に寄りかかってわれわれの暮らしが成り立っていることを思い知らされ、とともに、さらに重い真実を突きつけられることになる。
なるほど、シンプルな構成にしたのも当然だ。だって対立の構図は「宗教VS利権」よりもはるかにシンプルな「憎しみVS憎しみ」なのだから。
作中でバカ丁寧に各人物の肩書きが示されるが、それは、「そんなもの、この構図の中では無意味である」ことを教える作用を果たす。
守るべき存在であるはずの子どもたちが憎しみを受け継ぐという哀しさ、本来はフルーリーとアル・ガージーのように協力しあえるはずなのにという悔恨、必要とされる人物が憎しみの犠牲者になってゆくことの落胆……。
そうなのだ。世に絶えない争いの源は、米VSテロ、民族VS民族、圧政VS貧困などではなく、すべては「憎しみ」という目に見えないものから発生しているのだ。人類すべてがその見えざる敵によって銃を取り、そのバカバカしさに気づきつつも、もっとバカバカしい利権とか体面といったこれまた目に見えないものに手足をつかまれ雁字搦めにされて、銃を置くことができないでいるのだ。
画面に目をひきつけるエンターテインメントとして成立させながら、テロを単なる舞台背景にとどめず「テロが生まれる要因」を描き、ただの英雄譚にせず「英雄が生まれるのは実は悲しい世界」であることを示して、心もひきつける本作。かなり質の高い1本である。
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